私、もうダメみたい。最後に籍を入れて下さい。貴方に沢山お金を遺したいんです。

6年付き合ってた彼女から昨日ベッドでプロポーズされた。
凄く愛してるのに、仕事が忙しいを言い訳にして同棲もしなかった。
1ヶ月に2回くらいしか会わなくて、
俺が寝てる横で起きるのを待ってるような彼女。
「疲れてるから起こしたら悪いと思って。一緒の空間に居れるだけで幸せ」
そう言ってた。

彼女「私、もうダメみたい。最後に籍を入れて下さい。
貴方に沢山お金を遺したいんです。
貴方なら正しく使ってくれる。どうかどうか宜しくお願いいたします。
末短いですが…ぐすっ…お願い…ひくっ…お願い…。」

彼女は皮膚癌でもう手遅れ。わざと治療しなかった。
仕事休めずに忙しそうにしてる俺に沢山お金を遺して暫く休んで欲しいらしい。
奥さんになったら忌引きも沢山取れますよぉって
後押ししてたけど殆ど耳に入って来なかった。
もう遺書もしっかり書いてバッチリらしい。

俺は書くべきなんだろうけどどうして良いのか解らない…。

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彼女は先週、婚姻届けを出しに行った翌日に病院でなくなりました。
生きる事に疲れていたので治療はしないと決めていたそうです…。

今日嫁が生前用意してたバレンタインチョコと手紙が届いて泣いてる。
せっかくの手紙なのに涙とヨダレともうわからんくらいの水で汚してしまった。
嗚咽というより咆哮だった。

嫁が遺してくれたものは余りにも重い…。
俺は仕事ばかりでロクに相手もしてやれなかった。
一度は別れようともした。
けど俺と付き合えて幸せだったって書いてた。

俺の仕事が忙しくても冷たくて
も家デートしかしなくても嫁は怒らなかった。

俺、バツイチだったんだよね。ATM希望だった元嫁が
「私と結婚してくれなきゃ今すぐタヒぬ」
って言って四六時中付きまとって憔悴して結婚した。

人生に彩りなんて無くてこのまま無駄に消費するだけだと思ってた。
そんな時に嫁に出会った。

美人で優しくて料理の上手い嫁。
頭も良くて会話も面白い。
どんどん惹かれていったよ。勿論何もしなかったけど。

俺、バイクとゲームだけが趣味なのね。嫁も両方好き。
けど不況の煽りで給料が下がったら元嫁、
俺の趣味物全部売ってて慰謝料代わりに売ったお金は
貰ってあげると書いたメモと離婚届が置かれてた。
俺はサインした。

そして売ったお金+慰謝料が元嫁親から戻ってきた。
嫁に言われて部屋の汚さ、料理の不味さ、日頃の言動を録音してた。
勘違いしないで欲しいのは浮気も不倫もしていない。
確かに惹かれてしまったけど婚姻が続いてる限りは
迫られたって応じるつもりは無かった。

あ、嫁は部下だからよく喋ってただけね。

普段から元嫁の仕打ちに凄く怒ってた。
「ATM希望でもお金が欲しいのは個人の自由。
でもそれは自分の力で勝ち取り、
それに相応しくなる努力が出来たらの話だ」と。

愚痴ってた訳じゃなくて狭い地域だから噂の周りも早くて
「○○の嫁はロクでもない」って評判だった。

そして半年くらいしてから嫁に告白した。
離婚してから早すぎる気もしたけど、
くっそモテる嫁だから意識だけでもして貰おうと。
結果、あえなく轟沈。

「私の好みも恋人の有無も聞かれませんでしたよね?
確かに食事などには応じましたがそのようなつもりはありませんでした。
気を持たせるような行動、言動をしてしまっていたなら
私の不徳です。すみませんでした。」

と断られた。
そうなんだよね。
勝手に惹かれてただけで嫁の事は少ししか知らない。
いや、仕事上でしか殆ど知らない。

「じゃあ貴方の事、沢山知りたいです。
嫌じゃなかったら教えて下さい。」

と伝えて

「沢山知った後に引かれて私が不愉快になるリスクも承知ですか?」

と返された。
手強い。そして面倒臭い。
前から若干人との距離を置いてた子だったけど
此処まで拒絶されるとは…。

「少しずつ好きなもの、嫌いなもの、素の私を出していきます。」
「私は貴方に職場の上司としての印象しかありません。
人として興味は微塵もありません」
「折角の好意ですが諦めて頂けないでしょうか」

手厳しすぎる。今度は違う涙溢れてきた。

「諦めろってそんな簡単にはいかない。それなら苦労しない。」
「苦労して頂けませんか?好きだからと言って
相手に感情を何のてらいもなくぶつけてくるのは嫌です。」

もう俺ボコボコ。
半切れの応酬だった。

着地点で俺は嫁が振り向いてくれるまで
待つ為の条件は嫁に好意を持ってるような言動、
行動をしない、だったなぁ。

あとから聞いたけど、嫁前に手酷い失恋をして
未だに元カレが好きなんだそう。
20の時だから7年間引きずってるそうな。

「私の祖母が離婚してるのが相手の親御さんが気に入らなかったみたい。」
「長女でひとりっこって伝えたら甘やかされて育ってきたんでしょ」
「両親ほっといて夢のためだかなんだか知らないけど
県外で仕事してるとか親不孝過ぎる。花嫁修業でもしてればいい」
「仕事辞めて帰ってきたの。花嫁修業しようと思って。
そしたら『仕事を中途半端で投げ出すような奴は結婚も投げ出す』
って言われました。引き続きはしたけど言い訳ですしね…。」

「彼は何て言ってたの?」

「彼は跡取り1人息子なんです。親か私を選んで勘当か選べと迫られたそうです」
「なのでこちらから別れを切り出しました。最愛の人に愛を伝えた
口で別れを告げるのは辛かったですけど、
それ以上に彼を苦しめる存在になりたくなかったから身を引きました」
「そこから7年。一度も会ってないのに未だに
ブレもなく好きなんです。寧ろますます愛しいかもしれない」

「恋心が執着心に代わったと思われるかもしれません
が違います。ムネに去来するのは柔らかな恋心と少しの涙で幸せです」
「ただ彼の話をするのも、誰かから好意を寄せられるのも
キツいんです。別れた奴なんか忘れて俺んとこ来いよ
とかいう奴はバチバチにしばきあげたいですね。」

バチバチにしばくとう単語が出て驚いた。少し素なのかな?

「自分自身が情けない事に気持ちに整理ついてないし、
こんなまま誰かと付き合っても元カレの良さを
再確認する行為で終わってしまいます」

俺望みねーじゃん!
なんなん元カレ!と憤慨しつつ、
7年会ってもない元彼を愛し続ける嫁に少しメンヘラのケを感じた。

でもある日、事態は急転した。
嫁は休みで職場に差し入れを持ってきた。
俺の好きなコーヒーに去年美味しかった限定パン。

あ〜好きなもの知るのってこういう時に使うのかと今更納得した。

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そして2人で社用車に乗り高速へ。
嫁は本を買いに行きたいそうで俺は仕事。
途中で降ろす予定で乗せた。

ん?渋滞が出来てる?
事故か?事故だ!!燃えてる!!

え?嫁でてった!
ペットボトルの水でマフラー濡らして口に当てて炎上する車に突っ込んだ!

ススと火で真っ黒になった嫁が何か抱えて出てきた。
…ダックス犬とキジトラ猫だ。
人間は自力で脱出したみたいだけど、
ケガしてる人が車を指差して尋常じゃないわめき方をしていると。
中に誰かとり残されてる!と救出にいった。

救急車と消防車がすぐに来て
飼い主さんの搬送先を聞き、
犬と猫は嫁が預かる事になった…が。

「あ、あの…。勝手な行動して申し訳ありませんでした…。
社用車なのに…こんなドロドロじゃ乗れないのて
すぐそこのパーキングでタクシー呼びます。」

いやタクシーも乗車拒否だろう…。
嫁も病院に搬送されそうになったが、
犬猫を預けてから行くと伝えてた。

「いいよ、そのまま乗って。やけど痛くない?」
「え…でも」
「気にしないの。確かに好きだけど俺、仕事とプライベート
超区別するでしょ?好きだから乗ってって言ってるんじゃなくて
俺が責任を取るべき件なんだから、シートの汚れは
あとで洗車に出すし…。猫と犬はどうするの?」

嫁はすみません…。と言いながら乗ってくれた。
犬も猫もかなり怯えててヒゲがチリチリになってたけど
異常なし。こいつらは今でも元気。
おめーら助けてくれた嫁はもういないんだぞー。
天寿を全うしろよ〜と伝えにいきたい。

そこから嫁が少しずつ素を見せ始めた。

「汚い服と動物の毛が車内に汚れがつく事も
いとわず助けて下さいました。本当にありがとうございました。」

「俺は事情の把握出来てなかったけど判ってたら
動物大好きだし間違いなく同じ行動したから気にしないでw」

「マジっすか!私もめっちゃ好きなんですよ!」

いきなりフランクになった衝撃は忘れられないwwww
時々クールな態度に混じってフランクな態度が出てきた。
予想以上だった。

「どうやったら女の子に身体洗って貰えるんすかね」
「犬のクソかと思ったらかりんとうだった」
「あーやべー世の中のムネ1日だけ独占したい」

嫁の素はこんなだった。
美味しいもの、動物にくらいつき、バイクを駆り、
ちょっと音痴で絵が下手。

俺が大人ネタ嫌いなのもあって注意する事もあったけど
概ね受け入れられた。

そして告白してオッケー貰えた!

「貴方がどういう人となりかは大体判りました。
前向きに良好な関係を築いていこうと思います。
ただ元カレを忘れる事を強制しないで下さい?
その時点で終わりにします。」

条件つきの付き合いが始まった。

条件は楽だった。
嫁が特に俺と元カレを比較しなかった。
本当にいい彼女で幸せを噛み締めた。
いっぱいデートしたし構いまくった。

付き合って数ヶ月で不況から切り抜け、俺は超忙しくなった。
忙サツされる日々で彼女をおざなりにしてしまった。
泊まりも一度もしなくなったし外にも出なくなった。
俺の家にきてクタクタの俺を静かに見守るだけだった。
そして彼女の不満が爆発し、それは長く続いた。
もっと遊びたい、話したい、命の時間は無限じゃないんだよって。

俺は聞かなかった。
気持ちがささくれだってた「嫌なら別れよう」言ってしまった。
彼女は暫く呆然として
「…判りました。もう文句は言わないです」

大人しくなった。
言い返さない。
俺は面倒が1個減ったようでラッキーと思ってた。

嫁は栄養のある食事を作りおきし、
疲れの取れる風呂剤、アロマの加湿器を用意してくれた。
少しでも俺さんにとって良い環境で休めるようにと。
いつの間にかPS3と箱360、PSP、DSが揃ってた。
俺さんが気分転換出来るように、と。

でもこの環境でも俺は変わらなかった。
仕事のストレスが半端なかった。
PSPやってると嫁がこたつで寝てる。
出掛けたり会話もほぼなかったけど
この時間は穏やかで心地良かった。

嫁の滞在時間が段々短くなってきた。
仕事も休職した。

そして気づいた時にはもう手遅れ。
彼女に治療の意思はなし。

「わたし、最期にあなたに遺したい…。」

配偶者がなくなった時の忌引き、見舞金、
ありとあらゆる物を遺していった。

嫁は俺が休まなくて精神も体調も良くないのを
ずっと気に病んでくれてた。
嫁が何かしてくれても俺は何も返さなかった。

俺の誕生日やクリスマスはそれは豪華に祝ってくれたよ。
会話の端々から欲しい物とかリサーチしてくれてた。
でも俺は何もあげなかった。
忙サツされて気づけば嫁の誕生日が過ぎてるとかそんなだった。

いつの間にか嫁は無口で大人しくなった。
きっと病気が判って俺にお金を遺すか
治療して一緒に生きるか迷ったんだと思う。

忌引きの申請した時に社長に結婚してたのかって驚かれたよ。
はい、1日だけと伝えたら社長が号泣してた。
彼女の遺言で喪主は俺。
参列は俺のみ。

嫁は親と仲悪かったんだよね。
私がタヒんでも誰にも言わないでお葬式にも呼ばないで
貴方だけ参列してって言われてて。

今、嫁は小さな骨壺に入ってる。
いつの間にか嫁のドゥカティも俺名義になってた。
嫁の遺産は多少贅沢しても一生働かなくても大丈夫な額だった。

「貴方なら正しく使える。」
そう言ってくれた。

今は飯も食えんし頭も悲しみで一杯だし
正直後追いしたいと思う。しないけど。
こんな暗い話を聞いてくれてありがとう。
たった1日の婚姻期間だったけど俺は一生忘れない。

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