医者「このまま目覚めることはないだろう」意識はあって会話も聞こえる・・

大伯父(父方の祖父の兄)が経験したらしい体験。

親父や祖父曰く、
だいぶ破天荒だったらしい若かりし日の大伯父、
たまに親戚の集まりで会うと
そんな昔のいろんなことを話してくれた。
その中でもとびきりの衝撃体験。

戦後間もなく、大伯父は中学を卒業するや、
ある商人に弟子入りをすることになり
身ひとつで家を飛び出した。
毎日忙しく働き、勉強し、一刻でも勿体ないと
出掛ける度に行き先まで全力疾走。帰りも全力疾走。

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ある日、師の言い付けでお使い。その帰りも全力疾走。
ところが、既に陽も落ちて辺りは真っ暗。
それもあって、大伯父は馴れない道を踏み外してしまい、
落下してしまったらしい。

気がついたら病院。
気がついたら、と言うのは実は正しくなくて、
意識はあるはずなんだけど、目が開かない。
指の一本も動かせない。
いわゆる金縛りのような状態で目が覚めていた。

耳は聞こえていて、忙しく働く看護婦さんや、医者、
周りの患者の話し声でここが病院であることを自覚した。
そのうち、話を聞き付けたらしい
大伯父の母親が病院に駆け付けた。
声でわかったと言う。
大伯父は安心したのかそのまま眠った。

次に気がついたのは夜中だった。
目も開くし、身体も動く。
同室に患者がいる他は、人の気配がなかったので、
大伯父は医者や看護婦さんを探しに部屋を出た。
ところが、数十歩を歩くうちに凄まじい疲労感を覚え、
大伯父は無理をすまいと病院に戻り、そのまま眠った。

次に目覚めたのは朝か昼か……
またしても金縛り状態だったと言う。
意識の上では口を開いて
「わしは目覚めておる」と訴えるのだけど
誰にも伝わってない。
人の気配を感じる度にそれを繰り返し、
いつしかまた眠る。

その夜中にまた目が覚める。
今度は身体が動く。
出歩いて人を探そうとする、諦める。
そしてまた目覚めれば金縛り。

これを数日繰り返したと言う。

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大伯父、ある夜中に隣の病人を叩き起こし、
「すまないが、わしの意識があることを
明日看護婦に知らせてくれないか」
と頼むことにした。
隣の男は快く了解したと言う。

ところが、次の日も、その次の日も
医者も看護婦さんも自分に語りかけてくれることも、
夜中に見回ってくれることもなかった。
おのれ隣の男め、寝ぼけおったか、と
夜中に隣の男を叩き起こそうとしたが、
隣の男の姿はなかった。

退院したか、それとも……
最後までわからなかったそうだけど。

寝ぼけた男を使っても仕方ないと判断した大伯父は
人を使うことを諦め、
ここでようやく自分でメモを残すことを思い立つ。
けれど筆記用具がないではないか。
そんな現代ではなかなか陥らないであろう問題に
四苦八苦していた次の朝。
母親と、医者らしい人の会話が聞こえてきたらしい。
「このまま目覚めることはないだろう」と。

このまま他界したことにされては叶わんと焦った大伯父。
その夜中に起きたときに、自分の指先をわざと怪我して、
それで適当な紙にようやくメモを残すことに成功した。
ついでに衣服を、畳んで置いて眠った。

思えばメモはともかく、最初からそうしておけば
誰かしらに怪しんで貰えたろうな、
知恵がないと言うのは怖いな!と大伯父は笑っていた。

メモは汚い文字がさらに滲んで読めなかったらしいが、
これは知らない間に起きてやがるとなって、
ようやく呼びかけられ、
夜中に医者が見回ることで
大伯父が目覚めたことは認識された。
母親とも夜中に再会したと言う。

結局どんな治療をしたのか、しなかったのか……、
それからそう何日もせずに金縛りの生活は終わった。
その後は後遺症も何もなく、
元気になり大伯父はふつうに修業に戻った。

さすがに嘘か本当か今となってはわからないが、
大伯父はこのような話から、
近所の無人島で3日漂流したとか言う話など、
いろんな話をしてくれた。愉快なジイさんだったよ。

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