大昔の話。
出掛けて帰ってきたら、
住んでた市で子供が亡くなる事件があった。
地元の隣の区で夜にテレビで見ながら
両親と怖いなと話してた。
事件がトップニュースでなくなった頃、家に警察が来た。
親がいなくてバイト休みだった俺が対応した。
住民調査か何かで色々聞かれた。
それからどれくらい経ったか忘れた頃。
バイトが休みで寝ていると親に起こされた。
警察の人が来ていて話を聞きたいと。
玄関に行くと先日の警官を含む制服二人と
私服の刑事だという人がいた。
「俺君かな?ちょっと事件があって、確認だけさせて」
と笑顔で言われて以下のことを聞かれた。
・○○区○○に辺りに行ったことある?
→○○?
・◇◇の近くなんだけど。
→市内ですから何度か。
・最近行ったことは?
→さあ?
・いま俺くんが行ってるバイト先の近くじゃない?
→そういえばそうですね。
・△△に行ったことは?
→近所のホームセンターですよね?何度もあります。
・△△経最後に行ったのは?
→一昨日の夜です。
さすがに何の事件かわからなかったが
疑われてるのはわかった。
・○色の上着持ってる?
→持ってません。
・……お母さんに聞いたら持ってると聞いたけど?
それは誰だって持ってる色だし、疑われてるのは嫌だし、
何の確認か教えてくれと言ったけど刑事は笑顔のまま。
そしたら顔色変えた母親が部屋から俺のコート持ってきて
「これです」と警察に差し出した。
・これ普段着てる?
→バイト行くときに着てます
疑われてるのがわかっていたし理由は言わないしで
喧嘩腰になってたからそこで話は終わった。
本当に確認だけだ。TVのように簡単に解決しない。
こういう確認を何千人と
確認していかなければならないんです。
気分を害されたかも知れない。本当に申し訳ありません。
また何かあればよろしくお願い致します。
笑顔でそういうと名刺おいて警察は帰っていったが、
母親がそこからおかしくなった。
考え込んでいると思ったら俺の姿に怯えだし、
俺が気を抜いていると監視してる。
本を読んでれは、それは何?と聞いてくる。
音楽、見てたTV、全部そう。
出掛けるというと子供の頃のように
行き先と帰る時間を聞かれる。
帰ってくると何をしていたか
一から十まで事細かに聞かれる。
確実に母親が俺を疑ってる、犯人と思ってる節がある。
だが一体何の事件で疑われているのかわからない。
そのうち父親も姉も弟も同じようになった。
そんな家に帰るのが嫌で
友達の家に遊びにいく頻度が増えて、
帰れば監視が酷くなっていった。
完全に悪循環だった。
そしてある日近所のスーパーに行って買い物していると
後ろから「居たぞ!」と警官に取り押さえられた。
訳がわからなくて困惑していると
数秒で直ぐに「人違いだった」とか何とか言われて離され、
警官は直ぐに走っていった。
万引きか何かを追いかけてるのかなと思いながら
外出たらヘリが飛んでいた。
困惑していて家に帰って、
もう随分と自分から話しかけていない母親に
こんな目に遭ったと話したら
急に泣き出しどこかに電話してた。
そんな母親を気持ち悪く思っていると
夕方ニュースで小学生をさつがいした犯人が
近所のマンションから飛び下りたと報道したいた。
そしてそのニュースを見た
俺以外の家族全員が泣き出した。
「よかった、違ったんだ」と。
何に疑われているのかと思ったらこれか。
それは怖いわな、そういう風になるだろうなと
今なら思えるが当時はそこから荒れた。
話す、聞いてくるならともかく、
完全に犯人扱いで過ごした1ヶ月程の期間。
それ考えたら怒りが沸いてきて暴れた。
家の中を滅茶苦茶にして、みんなを叩きまくった。
帰ってきた親父にも手を上げた。
それでも怒りが収まらず家を出ようと思った。
ニュースでは犯人の生い立ちやら報道したいた。
地元の人間だった。だが学区も違う。
俺の知らない奴だった。
前とは違った感じで
家族に怯えて監視してる日々が続き、
金を貯めて部屋を決めた頃に
警官と刑事がまたやって来た。
俺に話がしたいと言って手紙を差し出した。
中身は昔、話しかけてくれてありがとう。
君が友達でいてくれて嬉しかった。とかなんとか。
何これ?と尋ねたら
例の犯人が俺宛に書いた手紙だという。
説明されて俺は犯人と接点があったことがわかった。
そして当初は容疑者の一人で、
以降は共犯と疑われていたこともわかった。
そこから本当に怖くなって違いますと繰り返していたら、
刑事がそれはわかっていると言った。
そして、手紙は複数あったこと。
そして宛先の相手を訪ねたら
誰もが犯人と接点があったことと
何故自分に?と驚くくらい接点が異常に関係が薄いこと。
俺と同じ様に
犯人を友達と思っていなかったことなどを教えられた。
そして手紙を受けとりますか?と聞かれたが
俺は怖くて断った。
家族との関係は
向こうが修復しようと歩み寄ってきたけど、
俺は許せなくて家を出たまま時間が経った。
結婚して子供も生まれたが親に会わせてもいない。
あの事件以降、
子供の命が奪われる悲しい事件がある度に、
家族から疑われ過ごした時間と
受け取らなかった手紙を思い出す。
何が切っ掛けで加害者や被害者になるかわからないけど
子供を両者にならないように育てようと思う中で、
あの手紙は受け取っておくべきだったのかな
何が書かれていたのかなと今は思う。
やっぱり信じていて欲しかったな。
罪を犯していると思われていたんだなと思うと、
もう無理だった。
ちょっと考えればあの事件だとわかるんだけどね、
それを思い付かず
家族に何を疑われているのかわからかった俺は
相当に間抜けだと思う。
あと書き忘れたが
スーパーで間違って取り落とされた時に
警察が追っていたのは犯人だったらしい。
疑われて、結果として間違われたわけだよ。
その日着ていた服が似てたのか知らない。
背格好も知らない。調べれば出てくるとは思う。
あとから知ったが任意同行求めてる最中に
逃げられたようで焦ってたみたいだな。
当時、地元の友達も警察が来て同じ様に話を聞かれていた。
それでも俺ほど色々は聞かれていない。
そういう話を先に聞いていたら
具体的に聞かれる俺を見て母親が疑ったのかとも思ったが
そういう様子でもなかった。
どの事件かわかるもんなんだね。
確かに少年犯罪が報道されてたし、
地元の治安が多少悪かったよ。
だからってそれが俺を疑う理由にはならないだろ。
両親に姉弟まで。
母親は俺をさっさと捕まえてくれという風でもなかったよ。
そりゃ葛藤もあったんだろう。
でも庇われることもなく行動を確認されることもなく、
犯人が飛び下りするまで
家族に犯人として見られていたと
わかった時の心境はわからんだろう。
母親が信じていたのは、
息子は犯人じゃないと俺を信じた訳ではなく、
息子は犯人という自分の想像なんだよ。
自己満足で少しだけ書き足しておく。
まずあの地域で分かりやすい悪さをしていた奴は
大した話を聞かれていない。
どちらかというと俺を含めた普通の奴や
大人しそうな奴が話を聞かれた。
俺が言われたのは「事件の確認のため」だし、
俺の友達は「バイクの窃盗事件」で目撃者を探しているや
「最近不審者を見かけていないか?」で話を聞かれている。
事件当初、犯人は目撃された身長からか
小学生か中学生と報道されていたと思う。
俺を友達だと言った彼の姿も思い出せない。
ただ俺の身長は当時で170前半だったし、
その条件でなら当てはまらない。
尋ねられた場所についてだけど、
俺の勝手な認識ではあそこは違う区だと思っていたし、
近くと言われた地下鉄の駅と
バイト先に近い私鉄の駅名、
バイト先の店舗名に付く地名が違ったので
別の地域と思っていた。
警察が最初に聞いてきた上着は「ジャンパー」だ。
俺が持っているのはコートで、「持っていない」と答えた。
母親が持ってきてバイト着ていってるって会話と
これはコートですね、
フードのついたジャンパーある?無いです、
で話は終わった。
会話は全て正確に書いているわけではない。
泣いて喜んだ母や姉弟が
これで大縁談みたいな雰囲気で抱きついてきて
「よかった、本当によかった」とか
「信じていた」とか言われて、
考えたら疑われていたのかということと、
それを問うと不安だった心配だった信じていたとか
好き勝手なこと言われて
言い争いから弟と喧嘩になった。
確認でも疑うでも一言声をかければいいだろう。
父親にも確認したら、家族の不安も解れ。
犯人じゃなくて良かったじゃないかと言われて喧嘩になった。
そして叩いた。
手を上げた事とが気に入らない奴が一杯いるんだな。
それはそれでいい。
自分と同じような状況で許せる人が多いなら
その方がいい世の中でしょう。
俺が言いたかったのは家族に疑われた日々と、
俺を友達だと言った奴、
それを思い出すという話だった。