ロードバイクで夜に山の上で若者と会った。その1年後に電話がなったが・・・

自分はロードバイクで夜間のヒルクライムが趣味の人間。
はまった理由ってのがちょっとだけオカルト。
本業は超長距離走だが、その一環としてやっていた
ヒルクライムにのめり込み、暇さえあれば近くの山を
登りに行ってた。

基本は昼だが、仕事があったりすると
夜に行くこともたまにあった。
その山は緩やかな坂が10~15kmくらい延々と続く山で
練習にはちょうどよく、目印になる休憩所などもあり、地
元ではヒルクライムのメッカだった。

その出来事は3~4年前の夏。
とても暑かったが湿度は低く、
坂を攻めるにはいい夜だった。

その時は坂用のおNEWのタイヤを履き、
ルンルン気分で山のふもとまで車で移動した。
たぶん22時ぐらいだったかな?
その山は19時ごろすぎると0といってもいいくらいの交通量で、
ひと気がまったくない。メッカと言っても夜だと自転車もいない。
自分一人ってのがまた燃えるんだよね。

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坂を登り始めて30分かそこらで、
ある休憩所についた。
その休憩所は販売機があり、景色もいいからいっつもそこで
休憩していたんだが、よくみると薄暗い電灯の下に
先客がいる様子。

一瞬びっくりしたが、近くにロードが見えたため
同業者とわかり、安堵して声をかけたんだ

「こんばんわー」

その人はかなり高価な自転車を乗っていたんだが、
年齢はたぶん20代ぐらい。
下手したら未成年の若者だった。

向こうも一瞬びっくりした様子だったが、
私の自転車を見てにこやかに返事をしてくれた。
ロードバイカーって同業者だとわかるとすごく安心するんだよな。

その若者と少しの間自転車談義にのめり込んだ。
好きな坂や行った土地の体験など、とても楽しいひと時だった。
その後は自分は坂の上、若者は坂を下るらしいので
名残惜しかったがそのまま解散。
その坂には頻繁に行くのだが、その若者にはそれっきり会うことは
なかったが。

意外な形で再び会うことになったのが
1年後だった。次に会ったその若者は冷たい死体だった。
いや、殺人とか埋められたのを発見したとかじゃないんだ。
その若者の葬式に呼ばれたんだ。

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若者と会ってから1年後くらいに知らない番号から電話があった。
その時の私は事故でロードバイクを失い、
本当に落胆していて何をする気力もなかったんだが、
不思議とその電話には手が伸びた。
電話口からはおっさんの声で

「いきなりこんな電話をして申し訳ありません。
そちらは××さんであっているでしょうか?」

と聞かれた。確かにおれの名前は××だ。
だがその声には聞き覚えがなかった。
そうだと答えると

「あなたは〇〇山でロードバイクに乗っておられますか?」

おれは気味が悪くなったが、乗っていると答えた。
向こうは安堵したような ため息をついたあと

「ぶしつけながら申し訳ありません。
一度お会いすることはできないでしょうか?
大事なお話があるのですが」

と言われた。さすがに怪しいな…と思い、なぜだ?と聞いた。

「間違いだったらすぐ電話を切ってもらってかまいません。
去年の7月×日にこれこれこのような自転車に乗った人に
会いませんでしたか?」

それはあの若者の自転車のことだった。
若者の自転車は高級品で、
そうそうあるものではないためよく覚えていた。

私は少し機嫌が良くなり、彼はいまどうしてる?と聞き返した。

 
「彼は死にました」
 
私はよくわからないめまいに襲われた。
え?死んだ?そう聞き返すと
 
「私は彼の親類なのですが….詳しい話がしたいので、
このあとご予定はありますでしょうか?」
 
このあと会えないか?と言ってきたので、
もちろんYESと答えた。 
(めずらしい苗字ではあるのですが、
電話番号をどうやって調べたかは未だに不明です)
 
そして向こうが指定したファミレスに行った。
ファミレスにいたのはなんの変哲もないおっさんで
服は喪服だった。
 
詳しい話とは?と聞き席についた。
 
「いきなりの連絡、呼び出しなど申し訳ありません、
しかしちょっと急ぐもので…」
 
と、かしこまって粛々と話し始めた。
 
少年の死因は交通事故、それもロードバイクで転倒した時、
運悪くガケに自分だけ転落したらしい。
 
少年には彼しか親戚がおらず、ほとんど天涯孤独であった。
 
少年の家を片付けていたところ一冊の日記が見つかり、
その末尾に
 
「もし自分が死んだら、7/×日に××山で私によくしてくれた
〇〇さんを探して自転車を渡して欲しい」
 
と書いてあったらしい。
 
自分の名前が書いてあることに驚愕したが、
自分のロードバイクにも書いてあるから、
それを見たんだろうと思った。
 
私は愛車を失っていたことと、
いろいろ心労が重なってかなり危ない精神状態であったが、そ
の自転車を譲り受けることにした。
 
その人は
 
「自転車から、少し気味の悪さを感じていたので助かります」
 
と言っていた。
 
その黒がかった赤のロードバイクは昼に走るとすごく重く感じるのに、
なぜか夜走るとものすごく軽く感じる。
周りのロードバイク乗りに乗らせてもみんな同じ反応だった。
 
そしてこの自転車を受け継いだ私は、
たった30分ほどしゃべっただけの
彼と竹馬の友のような親近感がするようになった。
 
それ以降私は彼への弔いと友情を思って、
その自転車に乗るのは夜だけと決めている。
 
そして今日も彼と山に行きます。
いつかまた会えないかなぁ。

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