箸の持ち方を指摘してくれた嫁だったが「私もお箸がきちんと持てなかった」とポツリと言った

嫁との出会いはアルバイト先。
皆一斉にオープニングスタッフとして
働き始めたから仲は良かった。

なかでも嫁とは話が合ったから、
バイトのない日も遊びに行ったり親しくしてた。
バイト休憩中に弁当を食べていたときのこと。
いつものように嫁が話しかけてきた。

嫁「前から思ってたんだけど、俺ちゃんお箸の持ち方すごいな」

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俺は左利きなんだけど、昔からそれをみた
祖父母がよく右に矯正しようとしていた。
嫌がり続けているうちに何も言われなくなった。
握り箸を少し崩したような状態で食べていた。
今考えたらあれでよく口まで運べてたな。
その頃はどうでもよかったのでこう答えた。

俺「育ちが悪いせいか食べ方汚いってよく言われる」
嫁「それは別に関係ないし、今からでも治せるじゃんw」

俺も捻くれていたもんで、
他人のことなんてほうっておけばいいのに
たまに御節介なんだよなと思った。
「こうだよー」ってパチパチと持って鳴らせてく
る嫁の手を見て真似をした。

俺「これ食べる速度落ちるから嫌なんだよな」
嫁「そのうち慣れる」

嫁は思ったことを包み隠さず言ってくるほうだったので
話していて衝突することもよくあった。
明るくて飾り気無くて一緒にいると居心地が良かったので、
バイトを辞めてからも交友は何やかんやで続けてた。
就職して忙しくなっていた冬のある日、
連日で嫁に誘われ食事に付き合った。

その帰り道。
「家に泊まって行ってほしい」と言ってきた嫁。
様子がいつもと違ったのでなんとなく
何か話があるのかと思い、聞いてみた。

嫁「別になんもない。今日はなんとなく1人で居たくなかった」

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腑に落ちないまま。テーブルを真ん中に、
床に寝転がって目を瞑っていると
テーブルの向こう側で寝ていた嫁が
「私もお箸がきちんと持てなかった」
とポツリと言った。

その夜に話していてわかったのは、
彼女が育った環境が俺と似ていたこと。
先日、身寄りだった義母の100か日法要が済んだこと。
しばらく1人で居たくなかったこと。

嫁「ペットでも買おうかなって。猫がいいかな」

明るく言う嫁に、昔近所で俺がよく遊んでいた
野良猫の話をした。
その数週間後。知人で猫の里親募集をかけていた人の紹介から
出会った1匹の雑種と一緒に俺のアパートで嫁と二人で住むことにした。
2年半後、嫁の義母の墓参りに一緒に行った帰りにプロポーズ。

俺は事情があって子供の頃祖父母の元で育ったが、
そのことに関して不幸だと思ったことはなかった。
ただ、普通の両親というものがよくわからなかったし、
将来自分が誰かと生きていくことや
家庭を築くことに対して多分夢や希望はなかった。
そもそも想像がつかなかったから。
そんなだったんだけど、嫁と一緒になることは
なぜか不思議と迷いがなかった。
そこから結婚して今に至ってる。

嫁が子供を授かったと知ったときは、
いざ新しい命のことを考えると
「普通の両親」を知らない自分が親になれるのかと
不安に苛まれてきて。
手当たり次第に本も読み漁ったりすることもあった。
それでもやっぱりよくわからなかった。

「母と父にはなろうと思えばなれる、
あり続けることのほうが大変なんだよ。
あんたたちならわかるはずだよ、
何が合っても助け合いなさい」

といってくれた祖母の言葉のおかげで
ハッとさせられたりもした。

嫁と出会ってから、
周りの人のありがたみが改めてよくわかるようになった。
あのとき不思議と迷いがなかったのは、
多分嫁が人間的にも俺が尊敬できる人だ
と思ったからなんだろうなとよく思う。
褒めるとすぐ調子にのってエッヘンしてくるけど
「無い胸はられてもな」というと
「私より有ってから言え」と
胸つついてくる嫁に和んでる。

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