「あなたの事が好きになりました。付き合ってください」  彼女  「え?私達もう付き合ってるんじゃなかったの?先週も告白されたよ?」

俺と嫁の出会いはネットゲームだった。

以前の俺はなかなかのネットゲーム依存症だった。
ネットゲームにハマって専門学校を中退し
ネットゲームで知り合った女性と付き合って、
結婚するために家出して本州西側から東側へ。
ネットゲームにハマりすぎて離婚。
ネットゲームで知り合った女性と付き合ったと思ったら結婚詐欺。
その頃はネットゲームをするために仕事してた。
で、ゲームしてる最中に寝落ちしてるところに声をかけてくれたのが今の嫁。

俺がしていたゲームは、定期的に食料を消費して、
食料がなくなってしばらく経つと死ぬ(餓死する)
というゲームだったため、その他のネットゲームよりも寝落ちが危険だった。
朝起きたら俺のログに「ちゃんと布団で寝ないと風邪ひくよー」という文字があった。
もちろん寝てる最中だったので気付くはずもないが、
相手のキャラ名は残っていたので後日たまたま見つけた時に
「この間は心配してくれてありがとー」
と社交辞令のお礼を返しておいた。
それがきっかけでよく一緒に遊ぶようになり、色々と話もするようになった。

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その後も俺は寝落ちを繰り返してはその子に怒られていた。
元々、眠くなる限界までログインしていたので常習犯ではあったのだが。
ある程度仲良くなってきたので、
俺が寝落ちしたら起こしてください…という名目でメールアドレスの交換をした。
もっとも、携帯は常にマナーモードなのでメールが来ただけでは起きないのだが。

寝落ち→メール来る→起きない→怒られる

これを何度か繰り返し、頃合いを見計らって
「メールじゃ起きないので、もしよかったら
電話で起こしてください。非通知でいいです。」
と俺の番号を伝えたら、普通に番号を通知してかかってきた。
声は可愛かった。
その日からたまに電話で話すようになった。

ゲームの話だけではなく、リアルの話もするようになり
歳が俺の8つ上なこと(当時俺が26、彼女が34)、隣の県在住なこと、
少し前まで彼氏がいたことなどがわかった。
ちなみに写メの交換などはしていなかったので、お互い外見はまったくわからない状態。

一緒に遊ぶようになってから大体3ヶ月くらい経っており、
その頃には俺も彼女の事が好きになっていて
彼女の方もある程度の好意はもってくれてるだろうと思い、
3月末、告白しようと決めて彼女に電話した。
「一緒に遊んで、色々話もして、あなたの事が好きになりました。
付き合ってください」
と伝えると、彼女から返って来たのは意外すぎる一言。

「え?私達もう付き合ってるんじゃなかったの?先週も告白されたよ?」

と。
まったく意味がわからなかった。

彼女曰く、先週俺が寝落ちした時に電話したら告白されたと。
話の流れとしては

彼女「俺君、起きなさいーちゃんとログアウトして寝なさい!」
俺「あー、はい。起きました。ログアウトします」(ゲームログアウト)
彼女「はい、よろしい。おやすみなさい」
俺「ところで彼女さん」
彼女「はい」
俺「好きです」
彼女「はい!?」
俺「付き合ってください」
彼女「あ、は、はい」
俺「zzz」(通話状態のまま)

俺、まったく記憶になし。
彼女の方も、俺君寝ぼけてたのかなーでもはっきりした口調だったし…
と半信半疑だったそうですが、でも嬉しかったから付き合ってる事にした。だそうです。
そんなわけで交際はスタートしたわけですが、大きな問題が一つ。

いまだにお互いの顔を知りません。
なので、お互い仕事の休みをとって会うことに。
俺が夜勤の仕事だったので、夜勤明けで翌日休みという日に仕事が終わってから
俺が彼女のいる県へと移動した。
その日は彼女も仕事だったため、
会うのは夕方で一緒に御飯を食べに行く予定にした。
(ちなみに俺の仕事は夕方から翌朝までの
18時間勤務→夜勤明け朝11時まで→翌日の夕方からまた夜勤
という体制のためゲームは夜勤明けの日、もしくは休日にしていた)

付き合うことになったのはいいけど、外見が激しく好みじゃなかったらどうしよう…
会ったあとでやっぱヤメとは言えないよなぁ…と、不安なまま当日。
もちろん相手も同じ不安だったようですが。

待ち合わせ場所に来たけど、時間は彼女はまだ来ていないようだった。
外見がわからない上に都会で人が多いため、どれが彼女なのかまったくわからず
あの子が彼女だったらいいなぁ。
あの子だったらヤバイな…なんて妄想をしつつ待っていたら
彼女から電話がかかってきた。
キョロキョロする俺に電話越しに
「そこの道入ってー。そこ左に曲がってー」
と指示してくる彼女。どこにいるのか聞いても答えてくれなかった。
しばらく彼女の指示に従って移動した後、
止まるように言われたので立ち止まって付近を探すと
少し大きめの看板の後ろに電話を持った彼女がいた。

予想以上に可愛かった。

俺「改めて初めまして。○○(キャラ名)の△△(本名)です」
彼女「こちらこそ××(キャラ名)の◇◇(本名)です」

付き合っているのに初対面という奇妙な恥ずかしさを残したまま、
とりあえずご飯を食べに行くことにした。
彼女のお勧めの居酒屋で、気恥ずかしいのを隠すために少し多めに酒を飲んで
無理矢理テンションを上げた。
改めて彼女を見ると、30代中盤とは思えない見た目。
正直かなり好みのタイプだった。
あと、胸が大きい。 俺にはかなり嬉しかった。

もちろん、店を出たあとはそのままホテルへ行った。

しばらくはそんな感じで休みが合えば会うという生活を続けたが、
5月に入ってから事件が起きた。
元カレが彼女が不在、というか俺の住んでる県に来ている間に、
彼女アパートの部屋に忍び込んで自殺すると喚きだしたのだ。

元々今の部屋は元カレと同棲していたが、
まったく働かない元カレに嫌気がさして別れて追い出したとのこと。
だが元カレは彼女に未練があり、
何度も復縁を迫っていたが彼女の方はすでに俺という彼氏がいるから
無理だと突っぱねたらしい。
新しい彼氏がいることに憤慨した元カレは、
彼女の部屋の鍵のスペアを作って隠し持っていたようで、
不在なのを確認した上で忍び込み、
彼女が飼っていたペットを人質に自分もペットも死ぬ、
と彼女に電話してきたのだ。
元カレはどうでもいいけど、ペットが殺されては大変だということで
とりあえずその死ぬ死ぬ騒ぎを録音した後、即座に警察に電話して事情を話し、
彼女の部屋に向かってもらった。

俺と彼女も急いで隣の県の彼女の部屋まで車を飛ばしたが、
その最中に元カレから彼女の携帯に
「警察呼びやがったな!」
と電話がかかってきた。
警察が来るのは想定してなかったみたいで玄関の鍵は開けたままだったらしく、
俺達が着く頃にはすでにお持ち帰りされてた。
元カレの両親にも連絡し、以後近付かないように言い聞かせてもらったが、
心配なので引っ越すことにした上で俺も今の仕事を辞めて一緒に暮らすことにした。
会って3ヶ月で付き合って、さらに3ヶ月で同棲。
しかし俺は無職、というかヒモ状態でネットゲーム中毒者。
彼女も元カレと同じパターンになるのが怖かったようで
失業保険の受給期間中は充電期間としてゆっくりしていい、
ただし失業保険が終わっても就職しないなら捨てます!
とあらかじめ釘を刺された。
半年の間、彼女には申し訳ないですが本当にゆっくりとゲームさせて頂きました。
本当にダメ人間でした。
起きる→ゲームする→昼飯→ゲーム→彼女帰ってくる→風呂→飯→一緒にゲーム→寝る
毎日これの繰り返し。
ずっとこんな生活ができたらいいなぁと思いながらも、
やっぱり彼女に申し訳ないという気持ちも強かった。

そして失業保険も終わりにさしかかってきた年末の頃、
彼女が仕事でストレスMAXなのと
俺がちゃんと働くかどうか不安になってきたようでイライラし、衝突が増えるようになった。
もちろん俺は働く気は満々だったのだが、やはり元カレの事もあって不安になったようだ。
年が明けてから俺はすぐに職探しに動き出した。

ハローワークで求人情報を見ていると、
運良く誰もが知ってる大手企業が中途採用を募集していたので即応募した。
面接の日時を確認し、当日会場である支店へと向かったのだが、
総合案内で本日面接予定の者です。と言っても本日そんな予定はないと言われた。
そんなはずはないのでちゃんと確認して欲しいと頼むと、
その支店の管理職の人が人事部かどこかに連絡してくれた。
で、調べてもらった結果、俺が支店を間違えていた。
例えるなら、面接があるのは広島店で、俺が行ったのは広島中央店みたいな感じ。
似てるけど違う。
しかも場所は数十キロ離れているので、どんなに急いでも30~40分かかる。
どう考えても遅刻確定。
それでも、必ず行くので面接だけでもお願いします!
と面接がある方の店に連絡し、相手側も待ってますとのことだったので、
即刻向かうことにした。

が、道がわからなくなった。
間違えた方の店舗で住所と大体の道順を聞いたのだが、どう間違えたのか着かない。
カーナビもつけてなかったし、その頃はスマホなんてなかったので、携帯でナビとかもない。
せいぜい携帯のネットで地図を見るくらい。
それでも俺が方向音痴なのかなんなのか、近くまで来ているはずなのにまったく見つからない。
すでに面接時間から2時間の遅刻。
いっそこのまま投げ出したろうか…と何度も思ったが、そんなこと彼女に言えるはずもない。
近くのコンビニで改めて地図を見たり、店員に場所を聞いたり、
たまたま見つけたネットカフェで場所を調べたりしたが、すでにパニック状態だったのかまったく着かなかった。
結論としては、道を一本間違えていたわけだが。
最終的に辿り着いたのは、面接予定時間から5時間後だった。
さすがに面接に5時間遅刻するバカをとる企業がないのはわかっていたが、
とりあえず行くだけ行き
「大変申し訳ございません。道に迷いました。
面接だけでもお願いできませんでしょうか」
と正直に告げたところ、とりあえず面接と試験は受けさせてもらえることになった。
面接者は何人もいたので集団面接だったみたいだが、
もちろん全員終わって帰った後だったため個人面接だった。

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面接が終わって憔悴しきって部屋に帰り着く頃には、
とっくに日が暮れていて、彼女が先に帰ってきてた。
午前中から面接なのは教えてあったから、
当然こんな時間に帰ってきた理由も聞かれた。
上手い言い訳も思いつかなかった俺は彼女にも正直に、道に迷って面接には遅刻した。
とりあえず次の候補を探す、ごめん。とだけ伝えると、彼女は
「5時間遅刻とかバカだねえwでも、そこで諦めて帰って来てたら別れてたわ」
と言われた。遅刻してでも行ってよかったと心から思ったわ。

次の日からまたハロワ通いが始まった。
さすがに前回のような大手がそうそう募集してるはずもなく、
それでも何とか探して面接に行く日々だった。
数日後、最初に受けた大手企業から郵便が届いた。

採用通知だった。

もう嬉しくて一人でガッツポーズしたね。
間違いじゃないだろうかと何度も書類を見直した。
彼女にも即メールで伝えた。彼女もとても喜んでくれて、
仕事帰りにネクタイを買ってプレゼントしてくれた。

そして、これは面接の時に言われてたんだけど、
もし採用されたら研修の後、大阪の支店に行ってもらうことになる、と。
つまり遠距離になるか、彼女が仕事を辞めて俺についてきてくれるか、どっちかになる。
一応彼女にもそれは伝えてたんだけど、
なんせ面接5時間遅刻なので受かるとは思ってなかったため、
どうするかまったく考えてなかった。
当時彼女は結構いい役職についてて、
給料もかなり多かった。
だから俺を養えてたわけだけど。
それでも俺は、一緒に居たいから大阪についてきて欲しいと伝えた。
新人だから給料も低い、今よりも大変になるけどどうしても離れたくない、と。

あっさりOKされた。
俺がそれでいいなら、ついていきます。と。
もちろんこれはプロポーズじゃないので結婚の話なんかはまったくしなかった。

2月から仕事開始。研修先店舗は、俺が面接の時に最初に間違えて行った方の店舗だった。
すでに噂は広まっていたらしく、入社初日からいろんな人に
「君、面接に5時間遅刻したんだって?w」
と言われた。嫌味ではなく、歓迎の意味で。
面接を担当した人からこっちの店に、
面接に5時間遅刻しても来るツワモノが行くからよろしくって連絡が来ていたらしい。
本当に行ってよかった…

2週間の研修の後、大阪へ転勤。
もちろん彼女も一緒に。

会社の寮だったので、家賃がゼロなのは助かった。
ただし、表向きは独身寮だったため彼女が一緒なのは会社には言ってなかった。
見た目は7階建てのマンションだったし、
その寮は大阪近辺の支店の人がまとめて入っていたため
廊下で会っても誰が誰だかさっぱりわからなかったから、
出入りを見られても特に問題はなかった。
と言うか、後々わかったことなんだが彼女連れ込みは俺だけじゃなかった。
隣の部屋に住んでいた人もそうだったのだが、
支店も同じで元いた県も同じだったので仲良くなり、
お互い彼女も含めてよく飲みに行ったりした。

仕事はキツかったけど、職種が俺に合っていたこともあり、
大変ながらも楽しく仕事ができた。
彼女もバイトしながら家計を助けてくれて、何の問題もなく日々を過ごしていた。

そして大阪に来てから1年が過ぎ、
今の会社である程度やっていける自信がついたので
いよいよ彼女にプロポーズをすることにした。
決行は6月。彼女の誕生日。
彼女が寝てる間に指のサイズを測り、指輪を購入。
誕生日当日は休みをもらって、まずは一緒にUSJに行くことにした。
数日前まで天気予報は雨だったけど、当日は嘘のように晴れた。
ひと通り遊んだ後は、海遊館へ移動。
そして併設の天保山大観覧車へ。
ここが俺の計画の一番の山場だった。

俺はこの日のために頭の中で何度もシミュレーションを繰り返してきた。
観覧車は、時計で言うと6時の位置で乗り込み、
そのまま時計回りに動いてまた6時で降りる。

まずは乗りこみ、彼女の横に座る。
そして10時の位置あたりまで、今日のUSJの感想などを話す。
そして12時に差し掛かったあたりでさり気なく彼女の手を取り
「誕生日おめでとう。これ、俺からのプレゼントです。
今まで支えてくれてありがとう。もしよかったら俺と結婚して下さい」
と左手の薬指に指輪をはめる。

…我ながら完璧だ。かなりクサい気もするが、プロポーズなんてそんなもんでいいのだろう。

そして計画通り彼女を観覧車へと誘い、彼女を先に乗せて俺はその隣へと座る。
彼女「隣なの?こういうのって普通正面に座るんじゃない?w」
と言われたが
俺「そうなの?観覧車乗った事ないからわかんなかったwまあいいじゃんw」
とごまかした。今まで本当に観覧車に乗った事がなかったからわからなかった。
ともあれ、ポジションも完璧。あとは12時のところで指輪をはめるだけ。
の、はずだったがここに来てまったく予想してなかった問題が発生した。

高いところ怖い

なにこれマジで怖いんだけど。
いや、確かに昔は高いところ苦手だったよ?
でも最近はジェットコースターとか普通に乗れるから大丈夫だと思ってた。
なにこの観覧車っての、ゆっくり動くから逆に怖いんだけど!?
ヤバイ、マジで怖い。
恐怖で喋ることすらできない。
俺の異変に気付いた彼女が
「大丈夫?もしかして高所恐怖症だった?反対に座ればバランス取れるかな?」
と心配して移動しようとしたんだが、動くことでゴンドラが揺れてさらに怖い。
「い、いや。大丈夫。大丈夫だから動かないで…」
と動こうとする彼女を静止してそのまま座らせる。
しかし怖いのには変わりないので、
できるだけ外を見ないように真下を向いてやり過ごそうとする。
そうこうしてる間にゴンドラはとっくに12時の位置を過ぎていた。

あー怖い動けない。でもとにかく指輪を渡さないとと思い右に座っていた彼女の遠い方の手を取り
「こ、これプレゼント。誕生日お、お、おめでと」
ともうまともに喋ることすらできないままなんとか指輪をはめた。
彼女が何か言った気もするけど、まったく耳に入らなかった。
ほとんど何も話せないまま、6時に戻ってきたゴンドラからほうほうの体で逃げ出した。
まさかこんな事になるとは…

ベンチでしばらく休み、何とか動けるようになったので凹みつつも
レストランの予約の時間が迫っていたのでその場を後にすることにした。
彼女と手を繋ぐと、指輪の感覚があった。

…俺の左手に。

えーと、俺が左手を繋いでいると言う事は彼女の右手なわけで。
で、指輪の感覚がある。
よくよく思いだせ?
俺は観覧車の中で右に座ってる彼女の遠い方の手を取って指輪をはめた。

右手だね。

…やっちまった。間違えた。
彼女に謝ると
「うん、違うねw」
って笑われた。
もう、どう取り繕ってもかっこ悪いので、その場で結婚を申し込みました。
「いつも俺様で完璧主義な俺君がここまで失敗するのは面白かった。これからもよろしくw」
と言われ、カッコ悪いながらもプロポーズは受けてもらえました。
そしてそれから半年後、二人が付き合い始めた日に入籍。

その後、子どもができたことをきっかけに俺の地元に戻してもらうよう申請し、楽しかった大阪を離れました。
もうすぐ3歳になる子どもがいますが、
いまだに観覧車に乗る時は嫁と子どもの二人で乗り、俺は下から撮影係です。

当時を思い出しながら書いてたら懐かしさもあって思いの外長くなってしまいました。
読んで頂いた方、ありがとうございます。

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