嫁「はじめましてー」
俺「はじめまして、お父さんにお勉強を教わってます」
高校生の時の恩師の娘
妙に懐かれてよく遊んであげてたら
「大人になったらお嫁さんになってあげるー」
でも、まさかホントにお嫁さんになってくれるとは
夢にも思わなかった。俺、年上好みだったし…
当時俺16歳で、嫁6歳
嫁が小学校3年生の時、父親が亡くなったんだ
んで、寂しがって沈んでる嫁が痛々しくて、俺は勢いで約束した
お父さんと一緒にやった楽しいこと、今度お兄ちゃんとやろうって
誕生日、クリスマス、お正月も夏休みも、楽しい事をたくさんやろうって
他に名案も無くて、その当時はとにかく元気になって欲しいと思って、
思いつく限りの楽しいこと、全部並べてゆびきりしたんだ
その場の勢いだろうと何だろうと、子供相手の約束は絶対に守りたかったし、
亡くなった先生に恩返しもしたかったし、それでお母さんとも相談して、
それからしばらくは、俺の我がままを通させてもらった
約束通り、誕生日もクリスマスもお正月も夏休みも、
プレゼントしたりお祝いしたり、一緒に遊びに行ったりした
だんだん元気を取り戻してくれるのが、ただ嬉しくてね
でも、その時はそんなに長い付き合いになるとは思ってなかった
中学生になったり、いずれ新しい父親ができたりすれば、俺の出番なんか
すぐに無くなるだろうし、そうなるべきだって思ってたんだよ、本当に
って、なんか色々思い出したら文章まとまらんわ、スマンね
中学校の卒業式の後、2人でお祝いしてる時に告白された
恥ずかしそうに下向いて、緊張した様な、切羽つまった感じで、
俺がいつも一緒にいたのは”小さい頃の約束を守るため”だけが
理由だったかも知れないけれど、私はずっと前から好きでしたって。
どうしても俺にだけは気持ちを知っておいて欲しかったって
気持ちは嬉しかった。でも俺そういう方面鈍いから、
そんな目で見られてたなんて、それまで少しも考えた事が無かった。
可愛いとは思ってたけど、それは家族に抱くのと同じ種類の感情だった筈で。
だいたい、ぴかぴかのでかいランドセル背負ってコケそうになってた頃から
ずっと知ってるのに、いきなり恋愛感情なんか持てる筈も無くて。
でも、だからと言って下向いたまま顔も上げてくれない嫁に冷たい事も言えず、
恋愛の対象として思える様になるまでには、少し時間が要るかも知れないけど、
それでもよかったらゆっくり付き合ってみようかって、そんなふうに俺は答えた
実際、それで何か付き合い方が変わったとかって訳じゃ無いけれど、
恋人っていうのはたぶんこの頃からだと思う
で、そのままずっと付き合って、高校を卒業した後、嫁が19歳の時に結婚した。
世間的には早いんだろうけど、その頃にはもう躊躇する理由が何も無くなってた。
大人になったらお嫁さんになってあげる、ってやつ、覚えてたのか思い出したのか、
プロポーズしたら、”さすが、子供との約束は守るんですね”って、
嫁は泣きながら笑ったよ
嫁さんには調香師になるって夢があって、進路も真剣に考えてたから
結婚は大学に進んで、就職して、きちんとキャリアパスが見えた頃かなと、
俺はそんな風に考えてたんだけどね。
嫁さん高三の冬、俺は長期出張で地方に出掛けてた事があって。
仕事に決着がついて後一ヶ月で帰れる事になった頃、週末の夜電話してたら、
嫁さんぽろっと口滑らせて”あと一ヶ月かぁ…長いなぁ”
それまで、寂しいとか会いたいとか、そういう事一度も言わずに俺の心配
ばっかりしてたのが空元気だったって事、俺は全然気づかなくて。
もうその時点で三年以上も俺の気持ちをずっと待っててくれた女の子に、
俺に会えない残りの一ヶ月が長いって言わせちゃった事が重くて。
うまく説明できないけど、その一言が俺にはものすごく引っかかって、
で、それから一ヶ月いろいろ考えて出した結論が結婚。
だからまあ、なんだ、期待裏切るかも知れないけれど、何か特別な理由が
あった訳じゃ無くて、たまたまそういう時期になっただけだという事で。