5年位前、俺が高校生だった時に
兄(25歳)が欝で家に引きこもっていた。
ずっとボーっとしている感じで、俺やおふくろや親父が
声をかけてもあまり返事をしなかった。
通院はしていたがなかなかよくならなかった。
ある日俺とおふくろがスーパーに買い物に行って
帰ってきたら、家の中から声が聞こえてきた。
その時親父は外出中だったし
兄はテレビを点けることなど滅多になかったので、
俺もおふくろも
誰の声?
と、かなり不審に思った。
そしたらおふくろが
「あ!!」
と大声を出して猛スピードで台所に向かった。
俺は訳が分からなかったが
「え!!」
と言っておふくろの後について行った。
台所から聞こえてきていたらしい声は
「ガスが漏れていませんか?」
という、火災報知器の声だった。
兄はボーっとコンロの前に突っ立ったまま
「別に…漏れていませんが」
とか訳の分からんことを言っていた。
普段声を荒げることのないおふくろが
「馬鹿っ!」
と大声を出して兄を引っぱたいたので衝撃。
おふくろは取り敢えずコンロの火を消して
泣き出した。
兄も俺も呆然としていたが、
大事には至らなかったのでホッとした。
その時兄は家族の分のチャーハンを
作っていたようだ。
どうでもいいことだがそのチャーハンが
絶妙な焦げ具合で旨かったので驚いた。
もっと衝撃を受けたのは、兄がおふくろに
引っぱたかれたことで目が覚めたらしく、
少しずつ鬱が回復して今ではちゃんと社会人として
復帰していることだな。
兄によると、「別に…漏れていませんが」と
言ったことは全然覚えていないらしい。
引っぱたけばいいってもんじゃないだろうし、
人によってはこういう荒療治のようなことは
逆効果なんだろうが、兄が目を覚ましてくれて
良かったな。
兄はその時以来、滅多に台所を使わせて
もらえなくなったが。