保育園の部屋に入ると両手に包丁を持った大人の男の人がいた。

3歳下の弟が赤ちゃんの頃、
私と弟は同じ保育園に入っていた。

お昼寝の時間に、自分のお昼寝セットの中に
弟のおむつが入っているのに気がついた。
弟のいる赤ちゃん組は、1階で自分の教室は2階だった。
先生に一言断ってから、1階に行こうと思ったが、
ちょうどお漏らしした子がいて、
3人いる先生の内1人は、その子にかかりきり、
残りの2人は、ほかの子のお着替えや布団の用意で
バタバタしていた。
私はもう着替えも布団の用意も、トイレも済ませていたので、
すぐに戻ればいいやと、おむつを持って1人で1階に行った 。

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1階の部屋に入ると、弟はベビーベットの中で眠っていた。

でも部屋に先生ではない大人の男の人がいた。
誰かのお父さんかな?と思い

「こんにちわ」

と声をかけた。
ビクッとして振り向いた男性は、
当時3歳か4歳の私から見ても尋常じゃなかった。

体ごとこちらを向いた男性は、
両手で包丁を握っていた。
よくわからないなりに、弟を守らないと!と
弟を抱き上げようとするが、
ベビーベットの柵が高くて手が届かない。
悲鳴をあげつつ、持っていたおむつや
そこらの物を投げつけながら、
男性と弟の間に立って両手を広げた。

ほっぺたがカッと熱くなって、
殴られた!と思った。
先生たちが駆けつけてきて、悲鳴をあげて大騒ぎになった。
先生に抱き上げられながら

「弟を助けて!」

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と泣いた。

「大丈夫よ」

と言われて、ベビーベットを見下ろしたら弟は
もうベットにいなくて他の先生に抱かれていた。
見回すと、男は部屋にいなかった。
涙を拭おうと顔を触ると、手にべったり血がついた。
ほっぺたを切りつけられていた。

その後、保育園はやめて小学校に行くまで
母が家にいてくれて、弟と私と母と3人で過ごした。
大人になって事件の記事を検索して読んでみた。

無職の30代男性が、塀を乗り越え保育園に侵入
窓から乳幼児部屋に侵入

居合わせた保育園児1人に軽傷を負わせ逃亡
2時間後、警戒中の警察官に逮捕される

という事件だった。
今は親が整形外科で手術を受けさせてくれたおかげで、
うっすら白く傷跡が残る程度になって、
自分でもよく見ないとどこに傷があるかわからない。

子供だったとは言え、
弟以外の乳幼児(当時10人くらいいた)を全く
気にかけなかった自分が怖い。
弟と男の間に走り込んだ時、大げさじゃなく

「死ぬかも」

と覚悟した時が修羅場。
その弟が大学を出たあと、
引きこもりニートになって、2年以上口を聞いてない
今も修羅場。

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