いつも元気がよかったA君がある日を境にどんどん元気がなくなっていった。母親が迎えにくると「帰りたくない」

数年前の出来事です。
私はずっと保育士をしていて、
当時勤務していたところは割と少人数の保育園。
私とX先生の2人で年中のクラスの担当をしていた。
クラスに1人A君という母子家庭の男の子が居た。
A君はいつも元気が良くてその元気さに
私たちが振り回されるくらいだった。

そんなA君がある日を境にどんどん
元気が無くなっていった。
前までは外遊びの時は底なしの体力で走り回り、
中遊びの時も飛び跳ねているような子だったのに、
ぼーっと虚ろな目をして、ずっと私かX先生に
ベッタリくっつくようになった。

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外遊びの時もみんなと遊ばないで
ずっと先生のエプロンを掴んだままで、
中遊びの時は先生の膝の上に座って
ずっとしがみついていた。

そして母親が迎えに来る時間が近づくと

「帰りたくない」

ってグズグズ泣き始める。
これを全部母親に報告していったい何があったのかを
帰りの時に聞き出そうとしたんだけど、
母親は言葉を濁してさっさとA君を連れて帰っちゃう。
A君に聞いても

「お母さんに言うなって言われてる」

って言って何も話さない。
それから2週間くらい立った。
私が休憩を終えて部屋に戻ったら
X先生が怖い顔をして待ってた。

一体何なのかと思ったら
A君がオネショをしたらしいこと。
でもそれは年中さんなら時々あること。
オネショした子は服を着替えるんだけど、
X先生はその時にA君の太ももに異常なまでの
痣があって大きく腫れ上がってた事に気づいた。

しかもA君は普段はオネショしても
しれっとしている子なのに、今回に限っては

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「ごめんなさいごめんなさい」

って大泣き。
私もX先生もこれは虐待があるかもしれない、
ってことで意見が一致した。
嫌がるA君にX先生が無理やり一体何があったのか
教えてもらった。

案の定、A君の母親の彼氏の仕業だった。
彼氏が出来てから、その男は家に
住みついたみたいだった。
ご飯を食べるのが遅いとか、返事が遅れたとか小さいとか
そういう理由でボコスカ太ももを殴ってきてたらしい。

見えないところに、ってのが凄い小賢しいと思う。
すぐ保育所の事務室に行って保健所の人が来て
事情を聞いてくれた。

でも、すぐに保護することはできない。
これはもう市の方で決まってること。 
とりあえず保健所と保育所の方針として
「一度警告、また殴られたら保護」
ってことに決まった。 
 
その日、迎えに来たお母さんに
所長自ら出てきて警告。
お母さんはなぜか泣きながら了承してた。 
 
次の日。
A君の二の腕には抓られた跡が痛々しく残ってた。 
殴るのがダメなら、っていう糞男の謎理論らしい。 
即保健所に報告。保健所の人もこれは悪質ってことで即保護。 
ここでの保護っていうのは、
A君を家に帰さないで施設に預かる事。
母親には絶対引き渡さない。
 
それをお母さんに伝えたら
 
「分かりました……」
 
ってトボトボ帰ってった。
しばらくは平和だった。
A君もちょっとずつ元気を取り戻して
いってみんなと遊ぶようになった。 
 
事件が起きたのはちょうどお母さんたちが
子供たちを迎えに来る時間帯で、
私がその応対に当たっていた時。 
母親と糞男が保育所に来た。
門に2人の姿が見えた時点でX先生が気づいてくれて、
A君を事務所に避難。
同時にほかの先生を呼びにいってくれた。
 
母親は糞男を止めることもしないで、
後ろを
 
「やばいって」
 
「やめようよ」
 
とか言ってついてきてた。
こっちに気づいた糞男が接近してきて
 
「Aをどこにやった?あぁ?」
 
って凄い高圧的に睨んできた。
お迎えに来たお母さんたちも
事態に気づいて、遠巻きに。 
 
私「A君は保健所が保護しているのでお引渡しは出来ません」
 
糞男「お前らのしてることは誘拐だろ!」 
 
私「私たちは市の定めた通りにしただけですよ」 
 
糞男「あれは虐待じゃなくて躾だっつってんだろ!」 
 
私「A君のお母さんはどうお考えなんでしょうか?」 
 
A母「……」 
 
糞男「こいつに聞くなよ。俺の意見聞けよ」 
 
私「A君の保護者はお母さんですので」
 
糞男「屁理屈こねんなああああああああああ」 
 
殴られると思ったら髪を掴まれて引き倒された。 
倒れたところで背中を踏みつけられて超激痛。
 
そのまま1メートルくらいずるずる引き摺られた所で、
近くで見守っていた他の子の
お母さんが履いていたハイヒールを
糞男に投げて頭に命中。 
よろけた糞男にそのお母さんがもう片方の
ハイヒールで横っ面に一撃。
 
糞男、頬を抑えてうずくまったところを

駆けつけてきた男の先生が確保。 

そのまま警察に連行。
糞男は暴行以外に余罪があったみたいで
あっけなく塀の中へ。
A君は本当のお父さんに引き取られた。
私を助けてくれたお母さんにお礼を言ったら

「申し訳ないけど正直(私)先生の事は考えてなかった。
ただ子供に危害が及びそうだったから無我夢中だった」

って言われた。
そのお母さんの子供は

「俺のママちょーつえーんだぜ!」

ってしばらく自慢してまわってた。

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