ギターを抱えてベンチに座っている老人を見かけた

無職だった頃に公園を散歩していたら、
ギターを抱えてベンチに座っている老人を見かけた。

暇だから声をかけてみたところ、
こんなことを話してくれた。

定年退職直後に事故で右足が利かなくなり、
そのせいで奥さんと熟年離婚してしまった。

退職金もほとんどが慰謝料として持っていかれ、
わずかに残ったお金をはたいて、昔憧れていたギターを買った。

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今はもう弾き方も忘れ、ただ抱えているしかできないが、
それでも今はこうしていることが幸せなのだという。

就職も決まって忙しくなったため、
それからしばらく公園に行かなかったのだが、
ある時ふと思い出してその公園を訪れた。

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しかしいつものベンチにその老人はいない。

通りかかった人に聞いたところ、ある冬の日の朝、
ベンチに腰掛けたまま、ギターを愛おしそうに抱えて死んでいたそうだ。

家族のために頑張ってきたはずなのに、
孤独な最期を迎えた老人が悲しすぎると思ったと同時に、
もし無職のままだったら俺も将来そうなっちまうのかな、と思った。

ちなみに奥さんとの離婚の理由は、
結婚5年目くらいに会社の先輩に連れられていった
スナックのママさんの名刺が理由という、
訳分からんものだったらしい。

まぁそれは口実に過ぎなかったのだろうけど。
確かに本当の理由なんてのは他人には分からんわな。

でもやるせないのも確かにあるわけで。

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