この春、校長先生が転任されたので、
自分的には、約束は守ったぞって気分で・・・
ウン年前。
小学生の息子が、こめかみを腫らして帰ってきた。
息子に聞くと、担任にされたと。
詳しく聞くと、掃除の時間、教室内でお茶を飲んでいた息子に担任が
「今は掃除をする時間だからお茶を飲むな」
と、取り上げたらしい。
水筒に手を伸ばした息子を(多分)はずみでなぎ払ってしまい、
ロッカーの角でこめかみをゴツン。
痛みで泣いている息子を放置。
自発的に保健室に行き、先生に言うとアイスノンで
冷やしてもらったらしい。
担任の対応があんまりだと思っていた最中に、
保健医から電話があり
「痛みや腫れがひどかったら病院へ」
と言われて、思わず
「担任がした事ですよね。
息子は、今、こめかみを腫らして紫色になっています。
正直、一言でも『ごめん』とかあればなんとも思わないのですが、
何も言わず放置と息子から聞いてちょっと不信感です」
保健医は、
「対応が悪くて申し訳ありません」
「いや、担任の対応に不信感なので・・・」
その日の電話は、それで終わった。
自分の中の第一の修羅場。
その夜、息子から、今日の事の前に(約1週間前)、
担任から体育館に呼び出され首を絞められた、
と告白された。
あまりの事態に、夫と相談。
何度も息子に問いただした。
黙ったまま涙をためて
「本当に。首を絞められた。怖かった」
次の日。
凄くためらったもののパートを終えた後、
学校に行った。一番話しやすい保健医に。
「少し、時間をいただけないでしょうか」
保健医は、そのまま校長を呼び出し校長室へ・・・
校長先生と保健医を前に昨日の事と
首を絞められた事をオブラートに包んで相談した。
途中、声が詰まったり話が途切れるのを、
保健医がフォローしてくれた。
最終的には、校長から
「きちんと聞きました。私の知らない所で
こんな酷いことがあったのが遺憾です。
監督不行き届きでした。申し訳ありません。
とりあえず私預かりで、きちんと話をしましょう。
なあなあですませませんから、少し時間をください」
校長室で話したことが第二の修羅場。
息子は、朝、グズグズ言うものの、
友達と会いたいからか、休まずに登校していた。
動きがあったのは、それから2日後。
校長から電話があり、
「これから伺ってもよろしいでしょうか」
校長と担任。
揃っていらしたので、冷たい緑茶出す。
息子も呼んで、勢揃いだった。
まずは、担任の言葉。
けど、うだうだと言い訳をされた。
長々と言い募るのを訳してしまえば、
掃除中にお茶を飲むのはだめでしょう。
みんな掃除をしていましたし、それを注意しただけ。
自分は怪我をさせようとしたわけではない。たまたま腕が当ってしまった。
途中で、校長がピシリと
「黙りなさいっ」
と言ってくれたので、
私の中の理不尽な気持ちは一旦、納まった。
「今は、言い訳ではなく謝罪の為に時間を取ってもらったのに、
君はなんだ。怪我をさせたのは事実だろう。
息子君に謝りなさい。痛いのに放ったらかされて、
不安だった息子くんに謝りなさい」
担任は俯いて、それからようやく
「息子くん、ごめん。先生が悪かった」
絞りだすように言った。
息子は、担任の方を見ながら
「はい」
と言った。
「掃除中にお茶を飲んだ息子が悪いのでしょう。
でも、はずみでも痛いことをしたら謝るべきだと思います。
この相手が息子でなく、私だったら先生は、謝るでしょう?
子供だから、謝れなかったことが不信感です。
あと半年も、担任の元、安心して学校に送り出せません。
もうひとつの話の方は、どうですか」
息子を自室に下がらせた。
校長は、『首を絞めた』事を担任に何度も問いただしたと言う。
けれど
「やってない」
と。
「先生。本当に、息子の首を絞めてないんですか」
「はい」
「じゃ、息子が嘘をついている、と」
「・・・・・」
「なんの証拠もありませんもんね。息子が嘘をついているんですよね」
「・・・・・」
多分、教師生命をかけて全力で『やってない』と言うんだろう。
彼は50代だ。人生を賭けて、全力で否定するだろう。
おもわず、涙がこぼれた。
「今日はありがとうございました。お時間を取って頂きありがとうございました」
お帰りの際、校長から
「わがままなお願いですが・・・この事は、内密にしていただけると有難いです。
今回のことは、私が全て悪かったのです。私に免じて・・・お願いです」
2人を送り出した。
私は、誰にも言わなかった。
担任の評判は、この事がなくても最悪だったし。
次の春。
担任がよそに転任。
その初夏、地元の新聞で
「小学校教諭 児童の首を締める」
の文字を見た。
それが、この担任かどうかは判らない。教諭の名前は出なかった。
でも違うとしたら、県下に『児童の首を絞める』教諭が2人いる事になる。
それも自分の中では修羅場。