バスの中で隣に座った女性が赤ん坊を抱えていた。赤ん坊だと思っていたのは人形だった

やっぱり人間が1番恐ろしい

いつも通り学校が終わってバスに乗った。
疲れていたから席に座れたらいいなと思っていたら、
その日乗ったバスはガラガラ。
ラッキーと思い後ろの方の二人掛けの席に座った。

音楽を聞きながら外を眺めていた。
何度かバス停に泊まって人がちらほら乗ってきたが
相変わらず席は空いていた。

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席が軋んだと思ったら
女性が隣に座っていて赤ん坊を抱いていた。
席空いてるのにわざわざ隣に…って思ったが
深く考えずにまた外に目線を移した。

しばらくバスが走っている時に
ふと音楽以外に何か聞こえた。
最初は気のせいだと思っていたが視線を感じた。

ああ、隣の女性が話しかけているんだろうなと思い
視線を移した時に俺はゾッとした。

赤ん坊だと思っていたのは人形だった。
それも大事に大事に
赤ん坊にするようなことをしてきたのか薄汚れていた。

その赤ん坊を俺の方に向けていた。
女性の方に目をやるとニヤニヤした顔で
俺を見て何かブツブツ言っていた。

さっきから感じていた視線はこの親子のものだった。
俺は何か言っている言葉を遮るように
ウォークマンの音量を上げた。

いったいこの女性はどうしたいのか、
なぜこんなことをするかで頭がいっぱいだった。

それからもずっと視線を向けられていた。
人形の見開いた目が自分を見ていると考えると
耐えられなかった。

我慢しているうちに俺が降りるバス停に着いた。

助かったと思い、降車ボタンを押して
女性に降りますと言い席を立った。

俺はバスから降りてホッとして、
何てことにはならなかった。
女性がものすごい勢いで降りてきた。

俺はその場から全力で走り去った。
いつも降りるバス停、
地元であんな人は見たことがなかった。
誰なんだ?何故ついてくるのか?
そんな思いの中家へ向かった。

家へ向かう途中に
このまま家に帰って家がバレるのはまずいと思い、
近所の隠れられそうな場所を探して身を潜めた。

10分くらい身を潜めていたが、
さすがにもう平気だろと思い家に着いた。

ここで安心してしまったのがミスだった。
俺が玄関のドアを開ける時に
少し離れた場所で親子は俺を見ていた。

こんなこと今まで一度もなかったから頭が真っ白になった。
ドアを急いで閉めて鍵をかけて、チェーンをしっかりした。
その日は布団にくるまって震えながら眠りに落ちた。

朝目が覚めて、風呂にも入らずに寝たから
学校に行く前にシャワーを浴びた。
目が覚めて昨日のことを鮮明に思い出したが、
学校を休むわけには行かないので準備した。

恐る恐る家を出たが何もなかったが、
昨日の油断が招いたことを思い出し
周りを気にしてバス停まで行った。
気を張っていたが何もなく学校に着いた。

学校で昨日の出来事を友達に相談したら皆ビビっていた。
だが、最終的に作り話とからかわれて
俺は腑に落ちなかった。

そうこうしている内に学校は終わり、
また家に帰るためにバス停に向かった。
バスに乗り込み2度とあんな目に合わないために
1人掛けの席に座った。

しかし昨日の親子はバスに乗ってこなかった。
俺は昨日はたまたまバスに乗っていて
悪質な嫌がらせにあったのだと思った。
そして降りるバス停に着きバスを降りた。

バス停に降りて歩き出した時、俺は再びゾッとした。

あのニヤニヤした顔と、
目を見開いた赤ん坊が俺の帰りを待つかのように
こっちを見ていた。

その時に昨日必死に遮っていた
言葉だろうと思える声が聞こえた。

「ほらパパが帰ってきたよ」

本当に涙が出そうになった。
足が震えた。
少しずつ近づいてくる親子。
ここで逃げ出さなきゃヤバい、本能的に体が動いた。

その親子の横を走り抜けた。
もう家に真っ直ぐ、ただひたすら走った。
家には親が今日もいない。
それでも外よりは安全だと思い家へ向かった。

家へ着き急いで鍵をかけた。
もちろんチェーンもかけた。
もうそれ以上何もできない。
震えるしかできない。
俺はトイレに閉じこもっていた。

友達にまたあいつがいた。と連絡をした。
返事が返ってくるのを待っていると家の呼び鈴が鳴った。

もう死ぬのを覚悟していた。
ダメだ、助からない。
そう思っていると携帯がなった。
友達からだった。

「もしも~し、俺だけどさ家にいる?
呼び鈴鳴らしても出ないからやっぱいない?」
どうやら呼び鈴を鳴らしたのは地元の友達だった。

昨日起きた事を違う学校に通っていた
地元の友達にも相談していた。

友達を家に上げた。
何泣きそうな顔してんだよと笑われた。
友達は俺を心配して家に来てくれたようだ。
俺はさっきあった事を話した。

友達から笑顔が一瞬消えたが、
俺がいるから平気だろと笑っていた。
俺はその笑顔で少し落ち着きを取り戻して、
2人でベランダにタバコを吸いに行った。

ベランダからは玄関側の通りを見ることができるんだが、
親子の姿はなくタバコを吸いながら談笑していた。

半分くらい吸い終わったところで、通りから声がした。
「子供が生まれたらタバコ吸わない約束でしょ!!!」

俺と友達は凍りついた。

女性はまだ何かを言っているようだが
俺は気が遠のいていく感じがして声が聞き取れなかった。

だがそんな俺の隣で友達が女性に言った。

「あの!誰かと勘違いしてませんか?
正直迷惑なんですよ!」

俺はその声でハッとした。

その瞬間見る見る内に女性の顔が歪んでいった。
「お前誰だよ!!!
私たち家族の問題に入ってくんな!!!!」
そこから物凄い汚い言葉を叫び続けていた。

俺は友達に大丈夫かと聞いたら、
ああいう奴にはハッキリ言った方がいい。
それにあいつは頭おかしいからな。と言った。

そして女性に
「警察呼びますよ!」
と言うと女性はお前覚えとけよ。
と言い捨てその場から去って行った。

俺は友達にお礼を言ったが、
友達の身の安全が心配で仕方なかった。
しかし、俺は平気だよ。
それより今日は泊まるよ心配だし。と笑っていた。

俺は今まで耐えていたが泣いてしまった。

友達に一応は親にも伝えておけ、
巻き込まれるかもしれないから。
と言われ携帯に連絡を入れた。

その夜は友達と酒を飲みながら
他愛もない話をして過ごした。
そしていつの間にか寝ていた。

目が覚めたら昼過ぎだった。
俺も友達も学校は休みだったから
気分転換に出掛けようということになって、
準備をして家を出た。
ポストに嫌がらせとかは無く安心した

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友達と地元をぶらぶらした。
本当は遠出しようと友達に言われたが、
お互い免許は持っているが
車を親が使っていて車もないし、
駅に行くのにバスに乗らなきゃいけないが
俺はバスに乗りたくなかったから、
地元ということになった。

友達もやはり地元で
あの親子を見たことは今までないとのことだった。
だとしたら、わざわざここまで
来ているのかと思って落ち込んだ。

そして、夜になり公園のベンチで座りながら
思い出話をしていた。

今日1日視線も感じ無かったし、
久しぶりに楽しい1日になるはずだった。

急に友達が公園の入り口を見てみろと言った。
まさか、と思い見たが何もなかった。
友達は勘違いだったと言った。

しっかし、あの人形怖かったな!
ぽぽちゃん人形ですら怖くなっちまうよと言った。
俺はそうだな、と言いかけた時に石が飛んできた。

なんだ?と思ったと同時に
「お前はまた邪魔をするのか!!!」

暗闇でも憎しみでいっぱいの顔が見えた気がした。
そして、目を見開いた赤ん坊も。、

友達の勘違いではなかった。
親子は公園に来ていたのだ。
俺の頭はなんで?いつから?
という考えが浮かんだと同時に
地元で遊んだ後悔と恐怖でいっぱいになった。

物凄い勢いでこちらへ向かってきた。
俺と友人は声を上げて逃げ出した。
後ろからは待てと言う声を上げていた。

俺はあまりの出来事で逆に冷静になって、
待てと言われて待つやつはいないと思った。

さすがに赤ん坊を抱えて走っているからか、
俺たちとの距離は簡単に離れた。
俺たちはもういいだろうという所まで来て、
緊張が解けたのか大笑いした。

あいつマジでヤバすぎるだろ!と俺たちは笑っていた。
一通り笑った後に警察に相談するかとなった。
しかし、証拠もないし
警察が動いてくれるのかわからなかった。

そこで俺たちは考えた。

普通に警察にストーカーにあっていると言っても
民事不介入とかいうので取り合ってくれないだろう。
だから家へ直接被害を加えて来た時に
警察を呼ぶか証拠を手に入れようということになった。

とりあえず家に帰るかということになった。

バラバラに帰っても怖いということで
友達はまた俺の家に泊まることになった。
帰り道にまた出くわしたらヤバイなという話をしていたが、
計画を立てたテンションでそこまで怖くなかった。

結局、親子には会わずに家まで辿り着いた。
だが玄関を狂ったように叩いている女性がいた。

俺の母さんだった。

何やってるの?と聞くとメールを見て
俺を驚かせようとしていたが
家にいなかったのかとふてくされていた。

そんなことをしていたが俺のことを心配してくれていた。

共働きでなかなか家にいないから
大変な時についていてあげられなくてごめん
とのことだった。

しかし、貧乏な家庭環境の中で
両親は俺を学校に通わせるために働いてくれているし、
明るい2人を責める気は全くなかった。
むしろ、心配かけて申し訳なかった。

友達は相変わらずおばさん面白えなと笑っていた。
そしてこの日の夜は何も起きなかった。

朝起きると母さんはもう仕事に出かけていた。
テーブルの上には
俺と友達の分のオムライスが置いてあった。
ケチャップが足りなかったようで
ピザソースがかかっていた。

この日友達は家に一度帰った。
夕方にまた来るということだった。
俺は学校に行った。
バス停に行くのもバスに乗るのも怖かった。

相変わらず行きには出くわすことはなかった。
学校の友達にはこの話はしても
面白半分にされるだけと思ったから言わなかった。

そして帰る時間が来た。

バス停に辿り着いた。
バスに乗って1人掛けの席に座った。
バスに乗ってる間は生きている心地がしなかった。
相変わらずバスに人は少なかった。
目を閉じてひたすら早く
そして何事もなく着いてくれと念じた。

しばらく経つと座ってる席の通路側に
人が立ってる気配がした。

俺は冷や汗が止まらなかった。
あのニヤニヤ顔の女性が
目を閉じることのない赤ん坊を抱えて
見下ろすように立っていた。

親子は席が空いているのにもかかわらず、
ずっと俺の隣で立ち続け相変わらず何かを呟いていた。

俺は音量を上げて、言葉を遮ったが
一度聞いたあの言葉は脳に直接聞こえてきた。

友達にバスにあいつがいる!助けて!とメールをした。

降車するバス停に着いて押しのけるようにバスを降りて、
全力でダッシュした。
親子も当然のように追いかけてくる。

「おい!!クソババア!!!」
友達の声が聞こえた。

友達が駆けつけてくれた。
友達は親子に挑発をしまくった。
女性は何を言ってるかわからないが
発狂しながら追いかけてきた。

友達は追い行くぞ!と俺の家の方へ向かった。

しかし、友達は全力で逃げるというよりは
挑発をしてはある程度近づいては逃げて、
また挑発を繰り返していた。

俺はいいから早く逃げるぞと言ったが、
友達はいいから!と言った。

そうこうしながら家へ辿り着いた。

いつもの女性なら家には何もしてこないが
今日はかなり怒っているから
家のドアを叩きながら発狂していた。

友達はよし、警察呼ぶぞ!と言っていた。
俺はすぐに警察に電話をした。
友達はその間もドア越しに挑発を繰り返していた。
電話をしてからしばらくすると、警察が来た。

友達は作戦通りと笑っていた。
仮に警察が来る前にいなくなっても
玄関の脇にビデオカメラを置いといたらしく、
証拠もバッチリと言っていたが
電池が切れて全く意味がなかった。

女性が警察に連れて行かれてから色々とわかった。

女性は昔子どもを亡くしていて、
旦那にも捨てられて精神を病んでしまっていて
人形を赤ん坊と信じ込んでいるらしい。
俺はどこの漫画とかドラマの世界だよと思った。

そして俺につきまとった理由は、
たまたま乗り込んだバスで、
元旦那に俺が似ているとのことだった。

それからは女性の親が謝りにきたりして、
色々と慌ただしかった。

俺が人形を赤ん坊と言っていたのは
女性の話を聞いたからだ。

結局、女性のことも2度と近づかないなら
どうにでもしてくれと言って終わった。
どうなったかは知らない。

友達がどうしてこんなに一生懸命になってくれたのかは、
昔の恩返しと言っていたが俺の記憶にはない。
かっこつけなのか。

だが本当に助けられた。

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