その日は曇りだったので、
傘をハンドルにかけ予約していた歯医者に行った。
が、その途中傘が前輪に引っかかり転倒。
怪我はかすり傷程度だったが、
前輪のフレームが内側に曲がって引っかかった
状態になってしまい、
タイヤが全く動かなくなってしまった。
仕方がないので歯医者の予約はキャンセルして、
自転車を道の端に移動させ
曲がったフレームを直そうとするのだがピクリともしない。
10分20分と時間だけが過ぎていく。
直らない苛々と道行く人の
不躾な視線で思わず泣き出しそうになった時に、
数分前に前を通過していった大型トラックが目の前に止まった。
「どうした?」
「あ…フレームが曲がって動かなくて…」
途切れ途切れにそう言うと、
おじさんはフレームに手をかけあっと言う間に
直してくれた。
思いがけない優しさに思わず泣き出そうになったが
『泣いたら迷惑がかかる』
と思い必死に我慢した。
おじさんは、何も言わず立ち去っていった。
帰り道、自転車に乗りながらボロボロ泣いた。
家についてもまだ涙は止まらず、
家族に見られるのが恥ずかしかったので
玄関前で泣いていたら、
普段名前を呼んでも見向きもしない近所のぬこが
足元にすりよってきて「にゃあー」と鳴いた。
涙が止まらなくなった。