私は農家の長男として生まれました。
2つ上の姉・2つ下の弟との3人兄弟です。
両親は自営業です。良くある田舎の一家でした。
私も幼いころから両親の手伝いをしておりました。
具体的には田植えやトラクターの掃除などです。
ちなみに父側の祖父母は
私が生まれる前に他界しております。
母側の祖父母は今でも存命であります。
私は大自然のもとで伸び伸びと成長しました。
小学生の頃は家の中でカードやゲームをするよりも、
外に出て縄跳びやキャッチボール、
チャンバラごっこをして遊ぶような子供でした。
カードやゲームを持っていなかったわけではございません。
ただ、家の中で友達と遊ぶと申しましても
ベイブレードくらいしか覚えておりませんね。
幸せな生活を送っておりました。
しかし、私が9歳の時に最初の悲劇が起こります。
あの日は休日でした。
父は仕事をしておりましたが、
午後に母が隣のさらに隣の市のジャスコへ
連れて行ってくれることになりました。
しかし出発する直前です。
私は姉と喧嘩をしてしまいました。
原因は覚えておりません。
おそらく些細なことでしょう。
その日「僕は行かない」
と言って私は家に閉じこもりました。
母は困っていましたが、
姉と弟を連れて出かけていきました。
14時頃でしょうか。父が帰宅しました。
父は、私が家に残っていることを
知っている様子でした。
母が運転中に父が作業をしている田んぼに寄って
一声掛けたみたいです。
母たちは晩御飯には帰る、
とも言っていたみたいでした。
しかし、夜になっても3人は帰ってきませんでした。
交通事故です。
道路に飛び出した猫のせいで、
反対車線の車と正面衝突してしまったようです。
母と弟はその日のうちにシボウが確認されました。
姉は意識不明。翌日にシボウしました。
私から家族が3人いなくなった瞬間であります。
近所の方々や学校の人たちは心配してくださいました。
当時9歳だった私はすぐに立ち直ることが出来ました。
しかし、父の方はショックが大きかったようです。
私から見ても、この時を境に
酒とたばこの量が増えたのがよく分りました。
それでも父は私を一人で育ててくれました。
いわゆる父子家庭であります。
運動会なども父一人です。
周りの方々がどうお思いになられたのかは
定かではありませんが、
私は特に寂しいと感じることはありませんでした。
ちなみに稼業の方は
専業主婦であった叔父嫁に手伝って頂きました。
やがて私も中学・高校へと進みます。
私は学校では明るく振舞っておりました。
「可哀想な奴」だと思われたくなかったからであります。
友達や先生もみんないい人ばかりでした。
高校2年生の時です。
私は親戚にある女性を紹介して頂きました。
大学3年生の方です。
とても育ちの良さそうな印象を受けました。
私は彼女と結婚前提で交際することになりました。
そしてお互い卒業した後、正式に入籍いたしました。
私も妻も昭和気質なところがございまして、
亭主関白な夫婦でありました。
妻は私に対して敬語です。
私の言うことにも一切嫌と言ったりせず、
私を支えてくれました。
叔父嫁に代わって仕事も手伝ってくれました。
私も近いうちに父から稼業を継ぐ予定でした。
私は妻を大変愛しておりました。
女房としてだけではなく、一人の女性としてもです。
私も愛されている自信はありました。
第三者から見れば、私たち夫婦は
バカップルのように映っていたのかもしれません。
新婚ホヤホヤであったその年の晩夏です。
父に癌が見つかりました。
余命1年とのことでした。
頭が真っ白になりましたね。
まだ親孝行などしておりません。
しかし翌月、私にも希望をもたらす出来事がありました。
子供を授かったことが発覚したのです。
2人で大喜びしました。父も喜んでおられました。
「お父さんに孫の顔を見せてあげましょう」と妻。
この時が今までで一番幸せでした。
しかし、私は運を味方に付けることができない人間です。
妻は20週目を迎える前に子供を亡くしてしまいました。
当然妻に非はありません。
健康にも十分気を使っておりました。
しかし「私は人ごろしです」と妻は自分を責めました。
そして妻は自らの命を絶ってしまったのです。
結婚記念日を迎える前のことでした。
男である私もショックを受けたのです。
妻の辛さは想像を絶するほどでしょう。
元気で、明るかった妻はもういません。
心にぽっかりと大きな穴が開きました。
やがて父の命も燃え尽きようとしておりました。
昨年、父が亡くなりました。
癌発覚から1年経っておりません。
最後の身内との別れです。
しかし悲しみは感じませんでした。
変な話です。
なんだか清々しいような不思議な気分でした。
現在、私は叔父夫婦に手伝って頂きながら
稼業を営んでおります。
私の自分語りもこれにて終了です。
読んで頂いた方々、誠にありがとうございました。