妻と、そして産まれたばかりの子供を失った。
もともと虚弱体質だった妻は、子供が産める身体ではなかったのだと思う。
私はそれを理解してそれでも結婚したつもりだった。
ある日、妻が妊娠を告げた。私は妻の身体を守りたかった。
しかし妻は、これが最初で最後の機会だから私の子供を産ませて欲しいといった。
素直に、嬉しかった。
大変な妊娠期間だった。
それでもいろんな人の助けを借りて分娩までかぎつけた。
もちろん付き添った。
しかし、途中で急に医師から退室するように言われた。
その後医師から聞かされたのは、子供の命を救えなかったこと。
そして、妻と最後の会話を交わして欲しいということだった。
確かに、覚悟していた結果だったのかも知れない。
なんとか泣かずに妻の横に立てた。
「やっぱり私は母親にはなれないみたい。でも、マキのこと、
私の生まれ変わりだと思って、大切にして欲しい。
勝手に名前決めてごめんね。あなたの文字を一文字もらいました」
私は、どうしても妻に、マキがこの世に産まれてこれなかったことを
告げられなかった。
勘のいい妻だった。いつも私の嘘を見破っていた。
「わかった。俺がお前の分もマキを幸せにしたる」
私が言えたのはたったこれだけだった。
妻は、にこっと微笑んだ。
そして、今までありがとう、マキをお願い、そんなことを言って眠った。
妻は、私の嘘にきっと気づいたのだろうな、と思う。
最期くらい気づかなければいいのにと、幸せなまま、逝ってくれたらよかったのにと。
マキ…妻はいったいどんな漢字を当てるつもりだったのだろう。
聞きたかった。