俺はある施設に三年ほどやっかいになってた。
自分が悪いのは百も承知だが、嫁と子供を育てるため、
悪事に手を染めた。
今自分に出来ることを探したらそれしか無かった。
施設での生活が一年ぐらいで嫁からの手紙の返事が無くなった。
仕事が忙しいと書いてあったし、子供が三歳と小さい事や、
実家からの手紙でも元気でやってると書いてあったし、
早く帰って来るのを楽しそうに待ってると書いてあったし、
まさかこんな事になっているとは・・・
やっと出て来て、家族の為にも頑張らなくっちゃ、
って人生再スタートするつもりだったが、
迎えに来たのは両親だった。
降りろ!と無愛想な親父に言われるまま降りて、
近づいたら沢山の花が飾ってあり
その花は全て嫁が好きだった花ばっかり飾ってあった。
まさか!と思い親父を見ると、
いつも無愛想で涙なんか見せない親父が
今にも泣き崩れそうにして突っ立ってた。
何も考えることも出来ず、声を出すことすら出来なかった。
そこへ見知らぬ車が一台現れて、親父の連絡を聞いて、
多分ここに最初に来るだろうと思ったらしく、
わざわざ出向いてくれたそうです。
その親子と手を繋ぎ一緒に、
今年五歳になるという娘さんが、現れた。
その娘は両親に何か言われて私の元へ来て、
一言ありがとう、
と言い、
お姉ちゃんに助けてもらったんだぁ~
って無邪気な笑顔。
親父はただ口を噛み締めながらその娘をナデナデしてあげてた。
その娘の両親が俺にお礼をいいながら、いきさつを話してくれた。
嫁がいつものように仕事に出掛けるため、
道を歩いているとその娘さんがお母さんと歩いていたそうだ。
まだ小さく歩くのも覚えたてで
チョコチョコとママの前を歩いていたそうだ。
そこへ原付きが走って来て、
それを避けようとした車がハンドルを切り損ね、
その娘さんの方へ突っ込んできたそうです。
母親はびっくりして動けず
、近くにいた嫁がとっさに車の前に飛び出し、
娘さんを助けたそうだ。
嫁はバンパーに当たり、
その反動で壁に頭を打ち付け重体になり病院に担ぎ込まれたらしい。
幸い娘さんには指の骨折だけで済んだが、
嫁は意識不明になった。
しばらくして、回復して右半身に麻痺が残るも
元気に振る舞えるようになるだろうと医者は言ってたらしい。
たが脾臓の損傷と脳の血管中に
血が溜まる病気で何度も手術を繰り返した。
だが最後は手の施し用がなく意識の戻らぬまま、
私が出て来る三日前に息を引き取ったそうだ。
突っ込んできた車は、
人身事故で交通刑務所に二年の実刑で済まされました。
車は走る凶器と言う言葉がありますが、
人が一人死んだのに何で殺人にはならないんだろう。
何で注意を怠った加害者は、
今知らぬ土地で普通に暮らしているんだろう。
私も罪を犯したが、何故、人の命まで奪ったやつが
簡単に短い期間で出てこれるんだろう。
嫁が悪いことして死んだのなら、
自業自得だが、人を助けた人間が何故死ななきゃならないんだろうか。
どんなに考えても答えがわからないし、
嫁はもう帰って来ない。
どんなに憎んでも嫁は戻らない。