生前の記憶がある。
といっても俺の場合はよくある前世記憶じゃなくて、
先祖記憶の方
それも遠い先祖じゃなくて、今も存命の母親の若い頃の記憶の断片が
俺の頭に入っている。
どこかの薄暗い個室で、親父に抱かれているお袋の記憶。
それと親父と一緒にどこかの公園を散歩して、
小さなボートの浮かぶ池を眺めている思い出。
私自身の父との思い出は思い出したくも無い不愉快なものばかりだ。
だが、自分は当時の父と母が愛し合った結果として生まれた存在なのだと、
本当の意味で実感し、生きることは出来た。
不思議な思い出だ。
お袋主観だから母の顔は見えないがね。
正常位で覆い被さって、嬉しそうに腰を振っている父だよ
異性と触れ合う緊張感、抱かれている時の女としての悦びの感情と、
とても楽しかったと感じる感情が俺の頭の中に残っている
私は母と違って男として生まれてきた。
だが、自分の性的趣向に影響を及ぼすことは無かった。
記憶のオリジナル元が同じ時間上、同じ場所に存在していたから、
自然と区別がついたのではないか、と私は考える。
強いて言えば……そういった美しい思い出を、
自分自身の人生の中で獲得したい、という気持ちが
幼少時から貪欲だったとは思う。
ただ、生きる気力……という程の綺麗な話じゃない
それだけ愛し合った男女、そしてその家庭も借金や暴力、
ギャンブルやらで壊れ、血で血を争う事になる。
それでもかつては、奪い合い、憎しみ合う為の関係ではなかった。
私はただ虚しい。