おだやかな休日、その出来事は起こった。
パパとプロレスごっこの最中、
はしゃいぎすぎた子供が電話機を台から落下。
「なにやってんの!あんた達!」
怒るママ。
「これはもう修理より買ったほうがいいですね」
近所の電気屋のおじさんの無情なお言葉。
「パパのお小遣いから買いなさいよ!」
ママに叱咤され、近くの店を見てまわるも、
新品の電話機はどれも高い。
「そうだ、あの手があった!」
オークションを思い出すパパ。
「お、1円即決送料のみ!これにしよう!」
早く郵送してあげないと
ママの怒りが復活してしまう。
「電話が無いと不便でしょうがないわ!」
萎縮する父と子。
俺はそんな彼らを見たくなかった。
発送は入金をまたず、速攻送った。
正確には入金はして貰わなかったのだ。
「ゆうパックシールが10枚たまったので、ただでいいです」
俺は嘘をついた。
シールはまだ4枚しかたまっていなかった。
嘘は大嫌いなのだが、この嘘はついてもいいと思った。
数日後、ゆうパックで品物が届いた。
「俺なんか落札したっけ?」
依頼主の名前に見覚えは無い。
中を空けてみると○○県の産物が数点と手紙が入っていた。
「先日はとても素晴らしいお取引をありがとうございました。
現在お盆で帰省中なのですが、
自分用に毎年買う3点セットを送らせて頂きます。
本当にありがとう御座いました」
ああ・・・俺は何てことをしてしまったんだ。
こんな事なら送料受け取っていれば良かった。
お土産1点、超安く見積もっても500円。3点で1500円、
送料をプラスしたら2000円オーバーじゃないか。
ただでさえ少ないパパ財布に膨大な負担をかけてしまった。
俺はいてもたってもいられなくなり、
すぐさま母親に電話をした。
「悪い、今から言う住所にお米5キロほど送ってくんね?」
うちの田舎は米屋である。
「お気を使わせてしまい、恐縮です。
お礼を言っては何ですが、うちの田舎は
うんぬんかんぬん・・・・・・お米のお礼は
ご遠慮させて頂きますね!
ループしてしまいますから(笑)」
お互いの評価も終わり、
パパとの取引は終了した。
金のかかる取引ではあったが、心が満たされた。
後日、俺は別の出品で郵便局にでかけた。
「送料610円です」
大量に切手を持っている俺は
610円の切手を局員に差し出した。
その瞬間思い出す。
先日電話機を発送した時に、
同じ行動を取った事を。
なにがゆうパックのシール、10枚たまっただよ。
思いっきり電話機の入った箱に
切手貼られてるじゃないか。
プロレス好きなパパも、
きっと俺の嘘を見抜いていたに違いない。
俺は恥ずかしさのあまり、パパをBLに入れるかどうか
今でも悩んでいる。
ちなみにBL=ブラックリスト。
(これに入れられると以降その出品者のオークションには
参加できない)