兄から遺書を渡されたこと。
私の家は父が私が出生してすぐに離婚し、旧姓に戻った母親と
その父である祖父・祖母・兄と私で暮らしてきた。
旧軍人の祖父と祖母は商売をしていて、
母もその手伝いで私と兄を大事に育ててくれた。
おかげで私も兄も成長し、
兄が自衛官・私は大学生になっていた2011年、
あの東日本大震災に兄が災害出動することになった。
出動前に兄が自宅に戻ってきて
祖父・祖母・母と私と食事をすることができた。
兄はいつもの調子で冗談を飛ばし、直接の被害がなかったとは言え
沈んでいた私たちを笑わせてくれた。
だが深夜になって、私と祖父を呼んでこう切り出した。
「今回の出動では地震津波被害の他にも
原発への救援もある。だから万が一にも
無事に戻っては来れないと思う。
どうか自分がいなくなったあとも、家族をお願いします」
と、祖父と私に遺書を渡してきた。
私は兄が死にに行くんだと思って取り乱して泣いて嫌がった。
祖父はそんな私を諌めて兄の遺書を粛々と受け取った。
改めて兄に向き直り、
「国家危急の時、○○家嫡男として国民の為に尽くし、
決して生還を諦めずに戦いなさい」
と、兄に激励の言葉を送った。
翌朝まだ日が明けぬ内に兄を見送った。
祖父と兄が互いに敬礼し、昨夜の遺書もあって、いやがおうにも
非常事態ということを認識させられた私の心は修羅場だった。
無事に活動を終え、戻ってきた兄に抱きついて
わあわあ泣いたのをご近所中に見られて恥ずかしかったと、
兄があの時を振り返って嬉しそうに言ったので書いてみました。