18年間知らない姉と兄がいた

俺の名前を山田太郎としよう。

数年前の話、父親とジャスコで買い物して
映画をみようとしてたら
「鈴木大輔?」って知らない人に声をかけられた。

「ちがいます」

「いや、誰がどうみても鈴木だろ。
俺だよ、高校で2個上だった田中だよ」

「ちがいます、人違いです。私は山田です」
って説明したら、
「人違いでしたすいません」って謝って離れて行った。

そのまま、映画館に入ったが、
なんかこの時からうちの親父の様子がおかしかった。
コーラとコーヒーを間違えたり、劇場の番号間違えたり、
映画おわっても、感想聞いても全く答えられなかったし、
とにかく変だった。

で、どっかで食事しようと思ったら突然、
「さっき、お前を鈴木大輔って呼んできた人を捜そう」
と言い出した。
何がなんだかわからんかった。

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さっきの田中さんを捜したら、
その田中さんもこちらを捜していた。
父親の様子はおかしかったし、
その田中さんも変に興奮していたようだった。

喫茶店で話をすることになったが、
俺は全く事態がつかめない。


「鈴木大輔くんを呼んだ方がいいですか?」

「今はまだいい。だけど、あとで電話で話をしたい」

「ちょっと電話をかけていいですか?」

「どうぞ」

そして鈴木さんに電話。
すると鈴木さんに
「お姉さんの番号を教えて」と頼む。
登場人物が増えすぎで何もわからない。

お父さんは震えているし、泣き始めた。
どういうことなのか聞いてみた。


「お前が二十歳になったら、
話さなければならないと思っていた。
だけど、こんなことになるとは思ってもいなかった。
これから相当ショックなことがあると思うけど、
驚くと思う」
と言い出した。


「今、あなたのお姉さんと電話しました。
今日は来れないらしいですけど、
改めて会って話がしたいらしいです」

「私は一人っ子です」

「お前には、姉と兄がいるんだ」

知らなかった。聞かされて、
しばらく何も考えられなかった。


「お父様、こちらの彼に話をしていないのであれば、
日を改めても結構ですけど」

「お気づかいありがとうございます。そうします」
そこで、2人は名刺交換した。

家に帰って事情をきいた。
お母さんも帰ってきた。


「お前には20になったら、
話さなければならないと思っていた。
お父さんは初婚だが、お母さんは再婚で、
お母さんには最初の旦那との間に、娘と息子がいる」

それは昼間きいたから、わかっていた。


「姉の父親は向こうの男だが、
兄は、双子で、誕生日はいっしょだ。
どっちが父親なのかわからない。
私たちは浮気というか、不倫の関係だった」

そこで頭まっしろ。


「今度、向こうのきょうだいと会うことになった」

「私も会いに行く。太郎もくる?」

行くことにした。
3週間後、隣の県まで車で言って、
向こうの姉と兄にあった。

初めて兄に会った時、
田中さんが間違うわけもわかった。
自分でも気持ち悪いくらい、自分とそっくり。
顔も髪型も着てる服の好みもしゃべり方も一緒。

母親は姉を見るとすぐに泣きだし、
姉と抱き合ってた。
兄はずっとむすっとした状況。
多分、私もそういう顔だったと思う。

向こうの父親は来てないみたいだが、
事情は知っていたらしく
「会いたくない」と伝言があった。
でもそこの食事台は向こうの父親がもってくれた。

姉は
「なんで私たち2人を置いて行ったのか」
と質問した。

最初は浮気の原因についての説明とかだった。
母は最初の旦那の家に行った時、
残業休出ばかりで家にいない旦那の存在に
不満をもっていた。

特に姑と気が合わなかったらしく、
「さっさと子供をうめ」
姉を産んでも「さっさと男をうめ」とうるさかった。
最初の旦那は姑には何も言ってくれなかったらしい。

そんな時、優しくしてくれた父と
関係をもつようになった。
最初の旦那と今の父親と、
両方と関係をもつ期間が半年ぐらいあった。

その期間に、俺と兄を授かったらしい。

浮気は隠したまま出産したが、出産直後、
「双子なんて産んで罰あたりが」と
姑が言ったのを機に、
もうこの家に入れないとなって、
姉はおいて、双子の俺たちを連れて、家出。
だけど、警察にみつかり御用。

母親は大丈夫だったけど、
俺の父親は未成年者なんとかって罪で捕まったらしい。
不起訴になったけど。

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離婚調停があったんだが、親権でもめた。
しかし、姑は
「片親で子供3人は育てられない。
姉と弟は向こうに親権をやれ。
長男だけはこちらに」

最初の旦那
「全部ひきとる」

父親と母親は
「姉は向こうに、双子はこっちに」

で、何度かの調停の結果、
姉と兄は向こうの家がもつことに。
向こうは後妻をとらず片親で、2人を育てたらしい。
こっちは、俺。

調停委員は双子を分ける事には難色をしめしたが、
それで結審。
後はうちの父親と母親が慰謝料を払って、
定期的な面会はしないことを約束した。

それで双子ははなればなれ。
向こうは数年前に姑が死んだ事が説明された。

で、やっぱりそういうことになるんだが、
DNA鑑定をしようという事になった。
俺は、今まで自分を育ててくれた父親を
悪くおもっているわけじゃないけど、
遺伝子上の父親がどちらなのか、
とても気にするようになったし、不眠症にもなった。
俺も兄も大学受験を控えている時期だった。

向こうの父親も、
DNA鑑定の結果がどうだったとしても、
親権は移動しないことを条件に、鑑定を認めた。

結果をまつ数週間、気が気じゃなかった。
たとえ、自分の父親が今の父親だったとしても、
それは不倫とか浮気で生まれた子供に間違いない。
父親が向こうだったとしたら、
俺は18年間、違う父親に育てられていたことになる。

結果は、俺と、兄の遺伝子上の父親は、
俺を18年間育ててくれた父親ということになった。
つまり、兄は、18年間、
遺伝子のつながりのない男に育てられたことになる。

これは相当、後から姉に聞いた話。
姉は母親のことはかすかに覚えているが、
兄は母親の事は全く覚えていなかった。

家はずっと片親。厳しいおばあちゃんがいる。
姉はよく怒る、弟をいじめる。
祖母や父から「女を信じるな」とずっと教えてこられて、
姉にもいじめられていたから
兄の方が完全に女性不審。
18年生きてきて、今でもは23年になるが、
彼女がいたこともないし、女友達もいない。

俺はDNA鑑定でふっきれて、受験に専念できたが、
向こうの兄はしばらく抱え込んだままだったらしい。

一応、連絡先はたがいに知っていたし、
ケータイかわったり
メルアドが変わった時はメールしたけど、
そんなに頻繁に会うわけでもない。
5年間で5回ぐらいか。会っても他人行儀だけど。

姉は去年結婚して、結婚式に呼ばれた。
向こうの親戚の前で、
双子でそろって座るのは拷問だったと
後から兄から聞いた。

今までの最初の修羅場。
で、2度目の修羅場が、3日前。

兄から電話がきて、あって飲もうということになった。
飲むのは初めて。
姉がいないで会うのも初めて。なんか緊張した。

俺はもう働きだしているけど、
兄は鑑定の後の精神的ショックとかいろいろあって
浪人して、今、就職活動中。

居酒屋で飲んで、当たり障りのない話をして、
今度は俺のアパートで飲みなおした。
そこで本音を語りだした。

「俺は女性不信だし、コミュ障だ」
「こんな俺じゃ就職なんかもらえない」
「両親の愛をうけて育ったお前が羨ましい」
「友達はいても、全然幸せじゃない」
「なんでこんなことになったんだ」
「俺にも母親がいれば」
みたいな感じで愚痴りだし、
俺も酒はいってたせいで、
あまりにうるさいので怒鳴っちゃったら、
大喧嘩になった。

ラックは壊れる。液晶テレビ割れる。PS3壊れる。
お互い怪我するまで大喧嘩。
とうとう近隣の住民が通報するレベルとなり、
警察官もきて、お説教。


「兄弟喧嘩で周りに迷惑かけるんじゃない」

「兄弟じゃない、他人だよ!」

その後、兄の酔いがさめるまで
警察署の相談室でお泊り。
事情を聴いた警察官がめっちゃ同情してくれた。
「そういうことってあるんだな」って。

酔いがさめたら、兄は平謝り。
あちこち謝ってまわって、
それからヤマダ電機いって
テレビとPS3買ってくれた。

まだ学生なのに
すごく金をもっていることが不思議だった。

それで改めいろいろ話したんだ、今までの23年間を。
修学旅行でどんなところへ行ったとか、
中学は何部に入ったとか、
高校はどんなところだったとか、
嫌いな先生とか、
今は大学でどんなことやってるとかさ。

不思議なもんで、
いろいろ似てるところあるんだわ。
好きな漫画の好みが、ちょっと上の世代向けで、
マニアックなところであうんだわ。
「あずまんが大王」とか「げんしけん」とか
「ねこきっさ」をマニアックとか言ったら
怒られるのかもしれないけど。

俺は大学、マンガ同好会にはいったけど、
絵はからっきしダメで、全然かけなかった。
兄も似たような部活に入ってて、
たくさんイラストを描いてた。
pixivでたくさんあげて、たくさんコメントもらってた。
うらやましかった。

向こうの家もさ、片親だけど
父親はすっごくがんばってるみたいで、
生活水準がこっちよりもいいんだ。

こっちの家、普通に共働きだけど、
海外旅行とか子供にPCとか車とかを
用意できるような家じゃなくてさ、
漫画とか小説はみんなブックオフだけど、
兄はブックオフは使った事がないって言ってた。

同じ兄弟なのに、こんなに格差っていうか、
生活水準違うんだなって、実感した。

今まで自分を貧乏だと思ったことなかったけど、
初めて貧乏だと思った。
兄も今まで自分ちを
恵まれているとは思ってなかったらしいけど、
はじめて恵まれているって思ったみたい。

それから、日曜の夜もまた飲んで、
月曜の朝に兄は帰って行った。
こっちは職場言ったら顔に青あざできて、
上司先輩に心配されたんで
「兄弟喧嘩した」って説明したら
「いい歳して兄弟喧嘩なんかするな」
って軽く怒られた。

でも、23年で初めての兄弟喧嘩だったんだ。
なんか初めて、自分にも兄がいたんだって実感できた。

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