「さて、わたしはそろそろ行くよ。 お迎えが来たことだしね…」

今から3年くらい前の話しなんだが…
当時俺は仕事の関係でけっこう田舎に住んでいた。
んで、まぁ田舎なもんだから遊びに行くとこもなく、
休みの日はカメラ片手に散歩ってのが定番だった。

その散歩コースの途中に
婆ちゃんと一匹の猫が住んでる小さい家があった。
その猫がけっこう人懐っこくて、
俺がその家の前を通ると足下にじゃれついてくるんで
俺もかまって遊んでた。

それがキッカケで婆ちゃんと話しをするようになり、
散歩に出たときには婆ちゃんトコで
お茶を飲みながら話しをするようになった。

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そんなのんびりした日が日々が続いてたある日
いつものように散歩に出た俺は
いつものように婆ちゃんトコに寄って
今日は何を話そうかなどと考えながら
トコトコと歩いていた。

婆ちゃんの家の前に着たときに
いつものように猫が出てきた来たのだが
何時もと様子が違う。
何時もならば足下にじゃれついてくるのが
その日は俺の顔をみると
すぐに家の中に引っ込んでしまった。

おや?っと思いはしたが、まぁいいかと思い直し
婆ちゃん家の戸を開けて中に声をかけた。

「婆ちゃ~ん」

返事がない

「婆ちゃ~ん」

猫の鳴き声しか聞こえない。

この時嫌な予感がした俺は
土間から家の中を覗き込んだ。

…嫌な予感的中。
婆ちゃんが台所で倒れていた。

「婆ちゃん!!」
婆ちゃんに駆け寄り声をかけるが反応が無い。
猫も心配なのか
婆ちゃんの周りをウロウロしながら鳴いている。
俺は急いで救急車を呼び、
近所に声をかけて人を呼んだ。

そうこうしているうちに救急車がやってきて、
俺と近所に住んでる婆ちゃんの知り合いの人とが
付き添いで一緒に救急車で病院に行った。

夕方になって近所の人が連絡してくれたのだろう、
婆ちゃんの息子さんがやってきて、
ひとしきり挨拶を交わして俺は病院を後にした。

…その日の夜、婆ちゃんは亡くなった。
クモ膜下出血で
俺が見つけた時にはもう手遅れだったそうだ。

葬儀の日、婆ちゃんの家で準備をしていると、
婆ちゃんのそばに猫がやってきて
婆ちゃんが寝ていると思ったのだろう。
婆ちゃんの顔をペシペシ叩きながら鳴いていた。
その様子や鳴き声があまりにも悲しく
その場の人々の涙を誘った。

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「婆ちゃんはもう二度と目を覚まさないんだよ…
婆ちゃんは死んじゃったんだよ」

そう声をかけて撫でてやると
俺の顔をじぃっと見つめて
「ミャア」と一声鳴いてどこか行ってしまった。

…その後猫の姿を見ることは誰も無かった

葬儀も終わり一段落ついた頃、
俺は近所の人達と一緒にいなくなった猫を捜していた。
アチコチを捜してみたが何処にもいなかった。

ある日俺は夢を見た。

婆ちゃんの家の縁側で
俺は婆ちゃんと一緒にお茶を飲みながら
日向ぼっこをしている夢だった。
春の陽光がポカポカと暖かい縁側で俺達は無言で、
しかしその静寂がとても心地良かった。

そのうちどこからともなく猫がやってきて、
俺の膝の上に乗って丸くなった。
その猫の様を見て俺と婆ちゃんは
顔を見合わせてクスクスと笑いあった。
とても心地良い時間が流れていった。

お茶を飲み終わり暫くしてから婆ちゃんが
「さて、わたしはそろそろ行くよ。
お迎えが来たことだしね…」

ふと前を見ると一人の青年が立っていて、
こちらをニコニコしながら見ている。
その青年が俺の方を見て会釈をしたので俺も会釈をし、
婆ちゃんの方を見た。

すると婆ちゃんはいなくなっていて、
青年の方を見ると若い小柄な女性が立っていた。
俺にはなぜかその女性がすぐに婆ちゃんだとわかった。
そして迎えにきた青年が
ずっと前に亡くなった婆ちゃんの旦那さんだとわかった。

俺の膝の上で丸くなってた猫が
ムクリと起きあがって二人の足下に歩いていく。
二人と一匹が並んで頭を下げた。

「今まで話し相手になってくれて
ありがとうとても楽しかったよ」

「俺も楽しかったよ、婆ちゃん」

「じゃあ元気でね。身体に気をつけてね」

「うん、ありがとう。またな婆ちゃん」

「またね」

そう言って二人と一匹は霞の中に消えていった。

そこで目が覚めて起きた。
ああ、婆ちゃんと猫は
一緒に向こうに行ったんだなとなぜか納得した。

後日、婆ちゃんの家の近所の人に話し聞くと
猫が婆ちゃんの家の庭の木の下で
丸くなって死んでるのが見つかったそうだ。
そして俺が夢を見た日が婆ちゃんの49日だった。

あれから婆ちゃんと猫の夢は見ていない。
婆ちゃんと猫はあっちでも
仲良く暮らしてると俺は思ってる。

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