厄落としの意味で…
私の学生時代はバブルのど真ん中だったんだけど、
私は景気のいい話とは無縁の、
どちらかと言えば貧乏な学生だったの。
大学3回生のころ、今思えば
「総量規制」ってのが入っていきなり景気の雲行きが
怪しくなったあたりだったんだろうけど、
バイトの帰り道に小さめのバッグを拾ったのね。
あたりは薄暗くなり始めてたし、人もいなかったしで、
とりあえずアパートに持ち帰ったの。
で、持ち主わかるものでも入ってないかと思って
バッグの中身を見てみたら、
免許証と帯封のついた札束入りの封筒が3つ。
一瞬「神様ありがとう」とか思ったんだけど、
さすがに額が額なもんで迷ってしまって。
結局は、やっぱり届けようってなって
免許証の住所に出向いた時には2週間過ぎちゃってた。
そしたら、免許証の住所の家には
黒い花輪と例の忌中の幕がかかっちゃってて、
もしやと思って御近所とおぼしきオバさんに、
それとなく事情をたずねてみたら大当たり。
私がバッグを拾った3日後くらいに、
ご主人が首を吊ってしまってた。
経営してた会社が資金繰りにつまってたんだって。
私は怖くなっちゃって、
結局お金は戻せないまま家に引き返してしまった。
今考えたら、匿名で郵送する手もあったんだろうけど、
もうパニック状態で、
いわく付きのお金持ってるのも嫌だったから
郵便局の定期にして放っておいたの。
幸い気分を切り替えて臨んだ就活にも成功して、
なんとかそこそこの会社に滑り込み、
何年かして同僚だった旦那と結婚、
子供も2人生まれてまずまずの幸せの中で、
例のお金のことなんて本当に忘れてた。
そしたら10年たって定期が満期になったって通知が来て、
口座を作った時はまだまだ高止まりしていた利子で
500万円以上になってて…。
旦那にも言えないまま、
今度は全部を金塊にこっそり変えたの。
そしたら、911が起こって
金の値段がどんどん上がって行って…。
今年の秋に、長女が結婚することになり、
相手はうちに婿に入ってくれるとのこと。
この前調べてみたら、あの金塊を売れば、
少し広めの2世帯住宅が買える。
旦那には昔宝くじに当たったとでも
言ってみようかと思ってる。
いわく付きのお金だけど、
もう自分の幸せのために使ってもいいよね。