俺と嫁は子どもの頃同じ施設にいた
施設に来る前は、二人とも親からもう少しで死んでたくらいの虐待を受けてた
高卒で就職して二十歳で結婚したが
家族というものがよく分からなくていつも不安だった
ある時嫁が妊娠して不安はピークになった
嫁は虐待の影響でほとんど生理がなくて子どもはできないと思っていた
それが突然の妊娠で嫁も俺もほとんどパニックになった
まともな親になんかなれるわけがない、きっと子供を殺してしまうと思った
俺は怖くて最低だがおろしてほしいと嫁に言った
嫁も怖がっていてそうするしかないよねと言った
でも嫁は迷っているようだった
そんな嫁を見ていたら俺もどうして大好きな嫁との間にできた命を消さなきゃならないんだろうと迷いが出てきた
でも絶対に不幸にする、ひどいことをしてしまう、親と同じになってしまう
そればかりぐるぐる考えていた

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結論がでないうちに嫁が倒れて病院に運ばれた、切迫流産だった
俺の会社の社長が病院に来てくれて
俺は思わず社長に打ち明けた
自分たちが親になれる人間ではないこと
でもおろす決断もできないこと
そしたら社長は、自分が見張ってて親としてもう駄目だと思ったらすぐに子供を引き取って責任をもって育てると言ってくれた
例えば俺たちが子供を虐待したり、親として失格だったりしたら
子供を殺したりひどい目にあわせたりする前に子供を守ってくれると言った
言葉だけじゃなくて、社長の奥さんにもちゃんと話してくれた

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俺と嫁はものすごく安心して
子供をおろさなくていいと思えた
おろさなくていいことが嬉しくて二人で泣いて
その時子供を本当はおろしたくなんかなかったんだと思った
社長は俺が就職した時からすごくお世話になっている人で
親がいないとか関係なく俺を一人前に育ててくれた人ですごく信頼できた
俺は社長に俺たちがどんなに嫌がっても必ず子供を引き離してくれとしつこく頼んだ

社長の奥さんが嫁を休ませてくれたり
子どもの世話とかのことをいろいろ教えてくれた
子供は小さくて柔らかくてかわいくてひどいことなんて絶対にできないと思った
少しずつ大きくなっても毎日毎日ますますかわいくなるので驚いた
俺たちの親はそんな風に思ってくれなかったのかと思うと少し悲しくなったが
俺たちは絶対に娘を傷つけられないので
親とは別の人間だと思うことができた
親のようになることはないなとはじめて安心した
社長が娘を引き取ることはなかった
最初からそんなことにならないと若っていたとかなり後になってから笑われた
でも娘をすごくかわいがってくれた
孫ができた気分だと笑ってた
きょう社長の葬儀が終わった
もっともっと感謝を伝えておけば良かった
どんなに泣いてももう間に合わない
俺たち家族を守ってくれてありがとうございました

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