迷子の小型犬を預かった。後日飼い主が見つかって「え、その子欲しいの?いいわよ、売ってあげる!」

数年前の話。

仕事帰りに比較的交通量が多く、
街灯の少ない道を疲れ切って歩いていると、
前方から地面を這うようにして何かが 
のそっ… のそっ… と近づいてきた。

びっくりして足を止めてまじまじ見てみると犬だった。
小型犬。リード等はなし。
驚いて脇により、犬の相手をしながらしばらく待ってみたけれど
飼い主らしい人影もなし。
仕方なく捕獲して最寄りの交番へ連れて行き、
拾得物の届出なんかをして自宅で預かることになった。
うちにも犬がいたし。

スポンサーリンク

地元のペット掲示板などに迷い犬保護の書きこみをして数日ほど経ったある日、
見知らぬご夫婦と男の子が二人来襲してきた。
「うちの犬がお宅にいるそうだから引き取りにきた」とのこと。
飼い主見つかった!と喜ぶと同時に、
なんでうちが分かったの?と違和感を感じて
(当然掲示板には個人情報に関することは何も書いてない)
「もちろんお返しします。でもその前にお宅の犬だという証拠を見せてください」とお願いしたところ、
いきなり「そんなもんないわよ!」と切れられた。
「ペットショップでの売買契約書か、血統書か、ご家族で撮った写真ですとか、何かあるでしょう?」と
言っても一切「ない!」の一点張り。
そのうち「返さないつもりかこの泥棒!」と夫婦でヒートアップしてきて、クソガキ二人も
「どーろぼ♪どーろぼ♪」と囃しはじめた。
すごい怖かった。この時が第一修羅場。

その辺りで騒ぎを聞きつけたご近所さんが警察に通報、
交番からお巡りさんが駆けつけてくれて、
お巡りさんの姿を見た途端夫婦逃亡。子供置いて。
つってもすぐに捕まってたけど。
その場で話を聞くと、結局犬は夫婦とはなんの縁もゆかりもなく、
近所の噂でうちが迷い犬を保護したと聞いて、

「子犬をとれば金になる!子犬産ませられなくても売れば金になる!」

と思ってやってきたのだそうだ。
それからちょっとごたごたしたけれど、
最終的に自分たちのやろうとしたことが詐欺に当たると理解したことと、
友人知人に知れ渡って大恥かいたことで、
我が家には二度と関わらないという念書を書いてもらって収束した。
犬の飼い主は見つからなかった。

それから一月ほどしてうちの犬と迷い犬とを連れて散歩をしていると、
見知らぬ女性が声をかけてきた。
仮にAさんとする。
以前のことがあるので多少の警戒はあったが、
「Bさん宅の犬に似ている」と言われて、
Bさんに聞いてみてもらうことにして、連絡先を交換して別れた。
後日近所の公園で犬連れで落ち合う。

迷い犬はやってきたBさんを見た途端に暴れて私の腕から飛び出そうとして、
しっぽをぶんぶん振っていた。
あ、この人飼い主だ。とすぐに分かった。
でもBさん、犬を見たまま嫌な顔をする。

なんだろうと思って話を聞いてみると…
もうとっくに新しい犬を買っていたのだそうだ。
迷い犬は結構なお爺ちゃん犬で、いつの間にか家からいなくなった時も
特に心配はしなかったそうだ。

「ほら、動物って死期を悟ると姿を消すっていうじゃない?」

みたいなことを言っていたけど、
それは多分猫の俗説だ。
以前のことで気力を削られていた私はなんかもうどうでもよくなって、

「いいです、じゃあこのままうちで
面倒見ますから」

と言ったとたんに、Bの目が輝きだした。

「え、その子欲しいの?いいわよ、売ってあげる!」

自分の耳を疑った瞬間だった。

「三十万でいいわよ、買ったときその値段だったし」
「本気ですか。払わないっていったらどうするんですか」

スポンサーリンク

「どうしよう?困っちゃうわ。二匹も飼えないし」
「面倒見きれないのなら引き取り手探すしかないですよね?」

「そうね」
「ならうちで引き取ります」

「じゃ、三十万円ね」

というような不毛な会話が続き、
とりあえず後日改めて、ということにしてその場は解散した。
立ち会ってくれたAさんも引いた顔をしていた。

一週間ほど経って今度は人間だけで近所のファミレスで落ち合った。
私は迷い犬を預かっていた間の
経費(病院代、エサ代、ペットホテル代わりをした代金)をまとめたものを
持っていった。
今回はBだけでなく、B旦那もいた。

旦那がいればもう少し軟化するか?と思ったが、旦那もBと同類だった。
こちらの主張は

「犬は返す。経費払え。経費払いたくないなら犬は返さん。犬の代金とでチャラだ」

あちらの主張は

「犬が欲しけりゃ金払え。こちらの請求額とそちらの請求額とで相殺で、残金は払え」

「飼えない犬を連れて帰ってどうするんだ」

と私が聞けば

「どうしようと飼い主の勝手」「いざとなれば…ねえ?」

と何事かを仄めかす。
情が移っている分、粘り切れなかった。
…というところで見ず知らずのおばちゃんが乱入してきた。
私はそっちのけで揉めだす三人。
話をきいていると、おばちゃんはB旦那の母親、Bの姑らしかった。
B姑は息子と義理娘を叱り飛ばし(その途中に「子供を産んだことのない女は優しさを知らない」とか
香ばしい発言があったが)私にとっての救世主になった。
ここら辺はBとB旦那の修羅場。

B姑は私に封筒を渡し(お金が入っていた)、

「本来ならこんな場所に呼び出すのではなく、こちらから出向いて
礼を言うのが筋だった。うちのバカ息子とバカ嫁が迷惑をかけて申し訳ない」

と謝ってくれた。
迷い犬はそのまま我が家で飼えることになった。
B姑を呼んだのはAさんだった。
封筒は返そうと思ったが、
老犬を飼うのは物入りになるものだからと言われてありがたく受け取った。

迷い犬が天寿を全うしたのでカキコ。
新しい名前に馴染まず、B夫妻が付けた名前にいつまでも反応して
しっぽを振っていたのを思い出すと切なくなる。
ペットロス状態の今が一番の修羅場。

スポンサーリンク