小さい頃団地に住んでいた。結構大型の団地でまるで一つの町みたいだった。
小さい頃だったから余計大きく感じたんだと思う。
団地の周りは大通りで車やトラックが沢山通る。
危ないので団地の外で遊ぶことは禁止されていた。
小学校1年生くらいの頃だろうか。
その日もいつものように友達と遊んでいた。
その日はおままごとをした後、誰かが探検しよう、
と言ったので団地のあちこちを
まわることにした。公園や小さな山、
山とフェンスの間の秘密基地、駐車場のそばの
小さな広場、坂、集会所の前、いつも通りなれているせまい通り、
そこを抜けると自転車置き場のはずだった。ひょこっと顔を出した。
その時ふっと排気ガスのにおいがした
そして我が耳を疑った。
車の通るやかましい音、工場から聞こえるカンカンカンという音
目の前をトラックが通る。
大きな建物が見える。
母親と買い物に行ったときに目にした景色に似ている。
ただ確実に何かがおかしい。
だってあんな高いビルは団地のそばに無いはず。
ここは一体どこなんだろうか。
横から顔を出している友達も不思議そうな顔をしている。
後ろのほうにいる友達は「どうして先に行かないの?」
といぶかしげな様子だった。
とにかく気味が悪いと言うより団地の外に出ては
叱られるので引き返すことにした。
それと、なんとなく先に進んだら帰って来れないような気がした
その後のことははっきり覚えていない。
きっと子供のことだから気を取り直して
すぐいつものように遊んでいたのだろう。
だけど大人になって思い出すと何とも不思議な体験だった。
もう引っ越してしまって今は住んでいないが
まだ団地はあると思う。
あの後何度かあの不思議な場所へ行こうと団地中を
探したけれど結局たどり着くことは無かった。
あのとき目にした、目の前に広がる黒っぽいビルとやけに晴れた空が
今でも脳裏に焼きついています。