花屋の友人が体験した話。
20代くらいの女性が花の予約に来たんだって。
頼んだ花は二つで、アレンジメントでおねがいします、って。
一つは白い洋花で清純なイメージで
もう一つはピンクのバラを入れてお淑やかな感じで。
一応用途を聞いてみるとちょっと恥ずかしがってから、
友人の結婚式に、と言っていた。花屋って
お悔やみとか法事のほうが多いから、
大々的なお祝いの注文はつい張り切っちゃう、
と友人は言っていた。
支払いは当時でもいいと言ったけど、他の人が取りに来るかも、
ということで支払いを済ませ、再度受け取り日時の確認と、
注文書の控えを渡して話を終えた。
当日、比較的暇なこともあって一つに30分以上の時間をかけて
注文のアレンジメントを作った。
友人の店では基本的には20分以内というノルマがあるけど、
余裕があるなら時間がかかっても満足のいく、
自分の最高のものを作りたい、というのが友人だった。
この辺り花屋も芸術家気質なんだろう。
というわけでここひと月で最高の出来、
と言えるアレンジメント二つを前に自信満々、
きっと、いや絶対喜ぶぞ、と思っていたそうだ。
さて、約束の時間に来たのは当人ではなく
中年かもう少しいってる女性。
控えは持っていたので引き渡すが、
「頼まれて来たが心当たりが無い」といった感じで
不思議そうに帰っていった。
そこからの話は端折るけど、注文に来た女性は
受け取りにきた女性(母親だった)が花を撮りに
来ている間に首を吊ったそうだ。
一つは自分用。もう一つは母へのプレゼント。
後悔もあるし、ほんとうにお母さんには感謝している。
けど耐えられない。そんな遺書があって、
二つのアレンジメントが並ぶことになったぞ。
端折った後の話は、亡くなったのが俺の家の近所の人だったから
わかっただけで、友人には言っていない。
男なのに感情移入が激しくて、
お悔やみの注文を受けた日に偶然酒飲みに行ったりすると
遺族がどんなに悲しいだろうと半泣きにまるほど優しい奴だから。
この間の彼岸が明けて、お疲れ様と酒に誘ったら、
酔っ払いながらもう居ない人を思って花を添える
行為を思うと耐えられない、と泣いててちょっと引いたし。
自作する自分と、迷惑をかけるであろう母に花を準備してまで
タヒを選んだ女性はどれほど苦しい状況だったんだろうか。
これ以上は、流石に詮索出来ない。