かつて、父には別に家庭があって、 母と一緒になる為に彼らを捨てた
親に不倫されたというか、
自分がその親の不倫の片棒担いでたような立場だった。 
 
すべてが発覚するまでは、
会社員の父・専業主婦の母・俺という
平凡な家族構成のもと普通に生活をしていた。
その筈だった。 
 
高校生の時、電話口で父が何やら
揉めている所を見つけた。 
何かあったのか、ときいても要領を得ない
返事で誤魔化されるだけ。 


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な事が数回あった後、たまたま俺が
ひとりで留守番していた時に郵便が届いた。 
差出人を見ると、父が時々電話で
口にしていた人らしき名前。 
いけないと思いつつも、
こ数日の事もあったので、
つい好奇心から中を覗くと、
父の名前でそこの住所にあてた現金書留が、
封も切らずに送り返されていた。 
金額欄を見ると、
大金とまではいかないが結構な額が。 
 
「ココ最近の電話といい、
一体どういう事だ。この(送り返してきた)人は、
ウチと何の関係があるんだ」
 
とキツい口調で尋ねると、
父は黙り込み、母は泣き出した。 
 
静まり返った空気の中、
やがて父が話してくれたのは、想像もつかないものだった。 
 
かつて、父には別に家庭があって、
母と一緒になる為に彼らを捨てた(かなり強引に離婚した)事。
その際、母のお腹の中には俺がいた事。 
つまり、俺がいた所為で、
父のかつての妻子は捨てられた事になるのだ。
 
当時、父は仕事の関係で単身赴任をしていて、
故郷に残してきた妻子に会えないさみしさから、赴
任先の女子社員(俺の母)と関係を持ったらしい。 
ぶっちゃけラリってた父は、
遠くにいる妻子よりも、
身近な母に入れこんじまったんだろうな。
 
この時点で「人でなし」と怒鳴りたくなったが、
更にショックな事が判明した。 
 
これは父も後になって知ったらしいが、
父に捨てられた女性が、
離婚してから間もなく子供を残して自殺していたのだ。 
つまり、郵便を送り返した人は、
亡くなった女性の両親。
(残された子供を引き取って、育てていたらしい) 
罪滅ぼしのつもりか、
これまで父は俺たちに内緒で金を送っていたが、
それらをすべて突っぱねて、
こちらに返送していたようだ。 
 
丁度電話で揉めていたのは、
その子供(俺にとっては異母姉)が、
育ての親である彼女の祖父母達と
正式に養子縁組をしたらしく、
もう金輪際あなた(父)とは関係がない、
一切連絡をしないで欲しい、と言われたみたいだ。 
 
そういえば、何となく変な気はしてた。 
これまで親戚と全然交流がなかった
(死んだと聞かされていた)のも、
もとをただせばそういう理由があったからなのか。 
 
「人でなし」だけでなく、「人殺し」かよ。 
もし、俺がデキなけりゃ別の道も
あったかもしんないのに。
 
悪いのは自分達(両親)でお前は何も悪くない、
と言われても、ひとりの女性を死に追いやり、
子供に酷い仕打ちをした間接的な
原因が俺なのは間違いない訳で。 
それまで普通だった両親が、
とても薄汚いものに見えて来て、
散々酷い言葉で罵倒した。
 
俺は、高校卒業後、
彼らから離れるように地方の大学へ進んだ。 
 
本当は直ぐにでも働いて
自立しようと思っていたが
 
「将来の為にも大学へ行ったほうが良い。行って欲しい」
 
という両親に根負けした情けない理由もある。 
大学卒業後、実家に戻らずそのまま
地方で就職した俺は、ある時何を思い立ったのか、
コッソリ連絡先を控えていた異母姉の所へ、ダメもとで
 
「会いたい」
 
と連絡を取った。
(何故か、電話で父が口にしてた名前を覚えていた) 
断られると思っていたが、意外にも
 
「一度だけ。誰にも知らせずひとりで来るのなら」
 
という条件付きで、
会う事になった。 
 
初めて会う異母姉(かなり年上なんだけど)は、
何処となく父の面影があり、
特別美人ではないが、穏やかそうな人に見えた。 
 
待ち合わせのレストランの高級な
雰囲気にすっかり呑まれた俺は、
料理の味もロクにわからないまま、
異母姉の話を聞いていた。 
 
多感な時期に父と母を一度に失い、
哀しいなどの感情を通り越えて途方に暮れてしまった事。 
 
「あなたは先に、おじいちゃん達のお家に行ってなさい」
 
と手紙を渡された時、
怪しんだり中身を確かめておけば、
母親を止められたかも知れない、
と今でも悔やんでいる事。
 
祖父母は優しくしてくれたが、
他人行儀な関係が何年も続いていた事。
(「やっぱり昔の人だからか、
自分の娘を殺した男の血が混ざってる
子供って認識が強かったみたい」とは異母姉の談)
 
あまり世話になるのはしのびなくて、
中学卒業後は、バイトしながら
夜間の高校から奨学金で大学へ行った事。
 
現在は、会社でバリバリ働きながら、
育ててくれた祖父母に恩返しをしているらしい。 
流石に結婚には、あまり魅力を感じないそうだ。
 
「俺達の事、恨んでますよね」
 
と尋ねると、ちょっと困ったように
笑いながら
 
「あんまり長い間憎み続けて来たから、
もうそういった感情持つのは飽きてしまった」
 
と。 
そして
 
「あなた(俺)は謝る必要はない。
謝ったりしないで欲しい。あの人(父)は寂しがりだから、
自分の代わりに大切にしてあげて欲しい」
 
とも言った。 
 
「言える立場じゃないけど、父は、
今でもあなたに会いたいと思いますよ」
 
と言うと
 
「もう、私はあの人を信じたくても
信じる事が出来ない。もしも伝えられるのなら、
あの人に伝えて欲しい。どうか私の事は忘れて下さい、と。
それが、あなた(父)が私に出来る唯一の優しさだ」
 
と、寂しそうに笑ってた。 
 
俺の異母姉は、幸い養父母に恵まれ、
現在に至ってるけど、内心では俺たち親子を、
今でも憎んでいるかも知れない。 
それでも、俺の前ではそんな姿はまるで見せず、そ
れどころか気遣いさえしてくれ、
始終温厚な姿勢を崩さなかった彼女には、
本当にスマンカッタ、とオヤジの代わりに土下座したくなった。 
 
ご馳走になった(一応割り勘を主張したけど、
「ここはおねーさんに任せなさい」と茶化すように断られた)後は、
お互いに元気でいよう、とだけ挨拶を交わすと、
それっきり今日まで一切連絡を取っていない。 
 
そして、時折連絡してくる実家の両親に、
あの時の異母姉の言葉を未だ

伝えていないヘタレな俺がいる

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