昔飼っていた犬が突然弾丸みたいな 勢いで走り出し知らない男の手を噛んでしまっていたが

昔実家で飼ってた雑種犬、
「ほー」っていう名前なんだけど
芝っぽい黒の中型犬で賢くて大人しくて
ちょっと臆病なやつ。

ある時、散歩の途中で突然弾丸みたいな
勢いで走り出し今まで一度もそんなことなかったので
油断してた俺は
リードをつかみ損ねて脱走を許してしまった
見つけた時には知らない男の手を噛んでしまっていて
血の気が引いた。

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怪我は軽傷だったけど警察も来たし、
保健所とか殺処分みたいな単語が
頭の中をぐるぐるして震えが止まらなかった。
男は怒り狂ってたし、病院で親と一緒に
土下座する勢いで謝った。
事態が急展開したのは翌日で、男が実家の近所に
住んでた小学生の女の子に
無理やり悪戯しようとしてたことが分かった。

女の子の母親とうちの母親が友人で、
よく家に来ていて
女の子は「ほー」が大好きだった。
襲われた女の子はすぐに男に口を
押えられてしまったが
「ほー」はおそらく一瞬の悲鳴を聞いて
駆け出したのだろう。

「ほーが助けに来てくれた」
 
と女の子は泣きながら話してくれた。
 
男に襲われたことは家族にも言えなかったが、
「ほー」が人を噛んで
警察が来たことや、
人を傷つけた犬は保健所に
連れていかれる(実際は違うが)
という話を聞き、このままでは
「ほー」が殺されてしまうと思い、
母親に打ち明けて警察に行ったそうだ。
 
「ほー」は一躍我が家のヒーローとなり、
女の子とその家族にも
こちらが恐縮するくらい感謝された。
 
女の子の父親は涙ぐみながら
 
「ありがとう。ありがとう」
 
と「ほー」の体を撫でていた。
 
「ほー」は男と格闘したときに
左後足を折られていて
治った後もほんの少し足を引きずって歩くようになったが
数年後に天国へと旅立つまで、
男に嚙みついたような激しさを
一度も見せることはなく、
賢く大人しく少し臆病なままだった。
 
正月に実家に帰ったら、
女の子の結婚が決まったと聞いた。
「ほー」も喜んでるんじゃないかな。

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