3年ほど前の修羅場。
年齢とスペックは当時のもの。
俺、20歳、歯科大生。
彼女(A子)、19歳、短大生。
合コンで知り合い、
A子からの告白を受けて付き合い始めた俺たち。
A子は今時の女の子って感じだったけど、
決して派手な感じではなく、かわいい雰囲気の子。
付き合い始めて半年が経ったころ、
町でのデート中にA子の母親にバッタリ遭遇した。
直接顔を合わせたのは初めてだが、
A子は母親に俺のことを話したり、
写真を見せたりはしていたらしい。
挨拶をして、立ち話をしていると、
A子母が「せっかくだしお茶でも」と言うので、
近くのカフェでコーヒーとケーキをご馳走になった。
A子母はごく普通のやさしいお母さん、
という感じだった。
30分ほどで解散。
その後、何かお礼の品を買って
A子にことづけようと、デパ地下に向かおうとしたのだが、
A子は「お茶くらいでお礼なんてしたら、
かえって気を使うよ」と言う。
せめてと思い、A子の携帯からお礼の
メールを送らせてもらうことにした。
A子に携帯を借りて、
せっせと文章を作っていたのだが、
予測変換にあやしい単語が表示されることにふと気付いた。
「援助」
「ホテル代別」
「サポ」
「○○メール」(ネット広告でよく目にする出会い系サイトの名前)
まさか、と思った。
その場では何も言わず、
メールを送り終えてA子に携帯を返した。
が、不安と疑心が残り、
自宅に帰ってから自分の携帯でそのサイトにアクセスした。
当然サイトは会員制で、
登録するとなると認証に時間がかかるらしい。
(年齢確認のために免許証の写真を送らなければいけなかった)
会員は携帯番号+暗証番号で
ログインできるシステムらしい。
ダメ元でA子の携帯番号と誕生日を入力してみたら、
あっさりログインできた。
(特定の端末からしかアクセスできない設定も可能、
とあったのだが、A子はそれをしていなかったらしい)
ショックのあまり動悸が激しくなり、吐き気がした。
居住地などは多少フェイクが入っていたが、
誕生日から血液型、身長、それはまさしくA子のプロフィールだった。
自己紹介欄には
「男女問わずいろんな人と仲良くなりたくて登録しました★」
などど書かれていたが、書き込みの履歴は
援助交際の相手を募集するものばかりだった。
毎回条件は決まっていて、
「ホテル代別2万、写メあり、現地集合現地解散できる方限定★」
今思えば2万ぽっちで体売ってたのかよ、という感じだ。
メールのやり取りを見ても、
過去に15人ほどの男とすでにホテルに
行っていることがわかった。
基本的にパターンは一緒で、
地元のホテル街付近にある大型書店の
駐車場で待ち合わせ(A子は毎回原付で行っていた)
↓
ホテルに移動
という感じ。
「知らない方の車に乗るのはちょっと抵抗が…っ(>_<)」
「じゃあ、お待ちしてまーす★」
など、待ち合わせの過程のやり取りが生々しくて、
悲しいやら悔しいやら情けないやら。
それから数日、A子と会う予定もなかった俺は、
表面上はいつも通りにメールのやりとりなどしつつ、
定期的にそのサイトをチェックしながら、
気持ちを整理して別れの覚悟を固めていた。
最終ログイン時間が表示されるシステムだったので、
そこからバレるかと心配していたのだが、
A子も相当な頻度でアクセスしていたようだったし、
まさか俺が見ているとは思いもしなかったのだろう、
バレることはなく一週間ほどが過ぎた。
次の週末、A子からデートの誘いがあったが、
俺は敢えて断り、いつも通りサイトを通じて
彼女の行動をチェックしていた。
予想通り、夕方あたりに
「今晩会える方募集★」
というA子の書き込みが上がった。
直後から、ポツポツと男性会員からのメールが届き始める。
チェックしたメールには「既読」のマークがついてしまうため、
A子が先にメッセージを読んで「既読」になったのを確認してから、
やり取りの内容をチェックする。
男性会員のうちの一人とのやり取りが始まり、
いつもの流れで着々と待ち合わせの段取りが決まっていった。
A子が指定した待ち合わせ場所は、お決まりの大型書店だった。
待ち合わせ時間の少し前、車に乗ってその書店へ向かう。
駐車場の入り口からやや離れた、
駐輪場置き場が見える場所に車を停めてスタンバイ。
そこから、A子に電話をかけた。
「はいはーい♪」
―俺だけど、今日予定してた飲み会がなくなってさ。
今からでもよかったらちょっとだけ会わない?
「あー、ごめんね。
もう先輩とごはんの約束しちゃったよー」
―マジかぁ…、先輩って誰?
「えっとね、前話した人!
○○さんと、■■さんとー、その彼氏も来るんだって!
■■さんがねぇ、誕生日なの」
よくもまぁこんなにも
スラスラ嘘がつけるもんだと空恐ろしくなった。
まだ僅かに残っていた、許せるものなら
許したいという気持ちがきれいさっぱり消えた。
そう、じゃあ楽しんで、と電話を切ってから
数十分後、A子のピンクの原付が駐車場に入ってきた。
なんかもう、すべてが夢の中の出来事のようだった。
相手の男は、変な和柄のポロシャツを着たDQNっぽい男だった。
出会い系サイトのプロフィールによると、30代の会社員らしいが、
ボサボサした金髪の、見るからにだらしない感じの男で、
金のためにあんな男にでも股を開く彼女を心底汚いと思った。
が、A子は特にためらう素振りも見せず、
ニコニコ談笑しながらその男とホテルへ消えていった。
後を追って問い詰めようかとも思ったが、
なんだかもう馬鹿馬鹿しくなり、
友人を呼び出して飲みに行った。
その友人もA子と知り合った合コンの参加者で、
彼女とも面識があったので、
俺は情けないと思いつつも事のてん末をすべて
愚痴って吐き出してしまった。
友人曰く、
「うまくやってるみたいだったから、
敢えて言う必要もないかと思っていたが、
(最初の合コンで)A子ちゃんがお前にぐいぐいアプローチし始めたのは、
お前の実家が歯科医院だって知った途端だったもんな。
正直俺はちょっとひっかかってた。
まぁ、結局そういう子だったってことだよな」
だそうだ。
(俺は合コン中盤から若干酔っぱらっていたため、
気付かなかった)
翌日、俺は覚悟を決めてA子に電話をかけた。
「俺くん?
なーに?どうしたの?」
―なぁ、お前昨日の夜何してたの?
「え?
言ったじゃん、先輩とごはん行ってた。
最後の誕生日デザートがねぇ、すごくかわいくてね」
言葉に詰まる様子もなく、べらべらと嘘の話をするA子。
なんかもう、女なんか本気で信用できないと思ってしまった。
―あのさぁ、俺知ってるんだよ、もう。
全部知ってるんだよ。
正直に言えよ。
「え?
なに、意味わかんない、笑
何が??」
俺はどうしてもA子の口から
白状させたかったのだが、A子はしらばっくれるばかりだった。
―□□さん(相手のハンドルネーム)との行為はどうだった?
とうとう俺がその名前を出すと、
A子はついに「え…っ」と動揺した声を上げた。
「え?なに?
意味わかんない、何の話?」
―だから、もう全部知ってるって言ったろ。
2万だっけ?
ずいぶん安い女だな。
「え、何。
携帯見たの?
最低最低最低最最低最低!」
混乱したように声を荒くするA子。
―お前の携帯を借りたときに…
「だから見たんでしょ!?
意味わかんない、ほんと意味わかんない。
なんなの、本当、最低」
俺の話を聞こうともしないA子。
埒があかないので、いったん電話を切った。
その日はA子からのコールバックもなく、
このままフェードアウトだろうな、と考えていた。
が、翌日A子から着信が入った。
電話を取るなり、
A子はいやに悲しげな声で唐突に話し始めた。
「俺くんはさぁ…、
私が軽い気持ちであんなことしてるって思った?
私がどういう思いであんなことしたのか、
ちょっとは考えてくれた?
私だって、ほんとはあんなことしたくなかったし、
俺くんに知られたくもなかったよ。
でもね、うちのネコいるでしょ。
あの子、持病があって、毎月治療にすごくお金がかかって…。
親は、そこまでできない、諦めなさいって言うんだけど、
私はどうしても諦められなくて…」
なんかもうね、アホかと、バカかと。
お前んちのネコなら動画や写真で散々見たっての。
ピンピン遊びまわってたっての。
―あー、そう。
じゃあさ、今からお前んちに電話するわ。
ネコの話聞きましたって。
いい動物病院知ってるんですけどって。
家電にかけるから、一回切るからな。
「ちょっと待ってよ。
そんなことしなくていいし!余計なお世話だし!
てかなんで信じてくれないの!?
ひどいよ!!」
電話口でヒステリックに泣きわめき始めたA子に、
言いたいことを全部ぶつけた。
こんな女相手にするだけ無駄、かっこ悪い、と
思いつつも、止められなかった。
ふざけんな、よくも半年間騙してくれたな糞ビッチ。
何が先輩とごはん行くだよ。
その間何してたんだよお前。
2万ぽっちであんなキモい男とやれんのかよ。
心底軽蔑するわ。
二度と俺の前に現れるな。
それだけ言って電話を切った。
A子からも二度とかかってこなかった。
後味悪いけど、これで終了。
その後、俺は友人のすすめで性病検査を受けたが、
幸い変な病気はもらっていなかった。
俺はA子の身売りのことは、その後誰にもしゃべらなかった。
が、事件の夜一緒に飲んだ友人にその後、
A子と同じ短大に通う彼女ができ、
友人がその彼女に
「あのさぁ、A子ちゃんて知ってる?」
などと(悪気はなかったのか、
故意なのか…たぶん故意だろうな、笑)ポロリと漏らしたため、
どこからともなく噂が広がったらしく、
A子は友人グループからも距離を置かれるようになったらしい。
俺はこの事件以降、いまだに女が信用できず、
彼女もできないままでいる。