父と母は同級生。
母は在学中に妊娠して父は卒業後に就職した。
母は姉と俺を立て続けに産んだ。
姉が4歳、俺が3歳にになる頃、母は大学に受験して合格。
学業と育児を両立させるのは難しいためか、
両親の同級生で親友のおじさんがその手伝いをするようになった。
おじさんは在宅ワークなので都合が良く、快く引き受けてくれた。
おじさんは良い人だった。
幼稚園の送り迎えをしてくれたし、遊んでくれたし、
勉強も教えてくれたし、美味しい夕食を作ったり、
相談相手にもなってくれた。
おじさんがいたから両親がいない寂しさも感じなかった。
おじさんが育児の手伝いをするようになってから10年以上が経った。
母は大学を無事卒業して資格を取って就職、
父も順調に仕事をこなし出世していた。姉は高校1年になった。
おじさんは育児や家事の手伝いの必要がなくなり、
あまり顔を出さなくなったけど会いに行くと喜んでくれた。
ある日、姉が俺に告白した。
おじさんの事が好き、明日告白すると言った。
結果は惨敗だった。
おじさんは同性愛者ではないけれど、女性とも恋愛が出来ない人だった。
今まで色んな女性と付き合ってきたけどダメだったらしい。
事実、俺はおじさんから女の気配を感じたことは一度もなかった。
俺たち姉弟の世話をする内に自分は父性愛が強く、
女性に対する愛情だとか欲求だとか嫉妬などは極めて希薄だったことに気づいたらしい。
「だから君とは付き合えない」
「申し訳ないが、君を女性として見ることは出来ても、
女性として愛することは絶対にない」
「小さい頃を知ってるから尚更」
と言って断ったらしい。
それから姉は少し荒れた。
当て付けのように彼氏を作り、おじさんに見せつけた。
でもおじさんは全くぶれなかった。
むしろ姉が彼氏を作るようになったことを喜んでいるように見えた。
ある日、おじさんがウチに遊びに来た。両親と酒を飲み交わし、ウチに泊まった。
みんなが寝静まる頃を待って、姉はおじさんを襲った。
「やめろ」
と言う叫び声でみんなが起きた。
ガタガタと震えるおじさんと殴られたのか目を押さえて、
口から血を滴らせている姉。
状況が分からず、みんな困惑していたら
「だから女は駄目だって言っただろ」
と、おじさんは叫んだ。
父がおじさんを連れていき、母が姉を慰めた。
両親の告白でおじさんの秘密が分かった。
おじさんは母親に性的虐待を受けていた。
そこから救い出したのが両親で3人はそれ以来の親友。
女性と交わろうとすると、性的虐待を受けていた頃の記憶がフラッシュバックする。
だから、女は駄目だった。
その事実を知って姉はおじさんを諦めた。
この人の心の傷は一生癒せないかも知れないけど、
この人が死ぬまで自分たちはこの人の子どもでいよう。
姉と俺はそう約束した。
先日、姉が結婚した。親族席で目を潤ませて喜ぶおじさんの姿は
微笑ましくもあり、どこか儚い感じがした。