当時コック目指して修行中
高校から地元離れて料理の専門学校行ったり、
海外に修行に行ったり、ひとところに落ち着くことが無かった
一段落ついたとき、地元に戻って働くことになった
地元の友達も久々に帰ってきた俺を歓迎してくれて、
人脈が乏しくなってた俺に友達紹介してくれたり、
彼女がいなかった俺に興味があるという
女性Aを引き合わせたりした
その人は料理が趣味で、彼氏彼女にならなくても
いい友達になれるんじゃないかとのこと
実際ちょっと込み入った料理の話ができる、
いい話し相手だった
多分結構いい雰囲気だったと思う
周りからも早く付き合えよーと茶化されてた
ある日Aが食に執着する人が
職場にいるんだという話をした
いつもご飯は一人で食べていて、
食べ始めると話しかけづらい雰囲気になる
食べている最中に声かけても
食べるのに夢中で気づかないらしい
まるで久々に食に有りつけた乞食のようだという
料理の勉強をする過程で食に執着することについて
学んだことがあったので、少し気になった
Aに頼んでその人を紹介してもらった
Aの家で俺が腕を奮うのでそこに呼んでもらった
太っているのか、はたまた肌の荒れたガリガリか、
不健康な人が現れると思ってたんだが、
Aか連れてきた女性は、メガネかけて
可愛く写ってる多部未華子にそっくりだった
体型含め多部ちゃんそっくりなので
普通に健康だってのは一見して解った
俺が料理をしてる間にAと多部ちゃんの会話を
聞いてると、多部ちゃんはほんわかした喋りをする
アニメだったら周りにお花飛んでそうなふんわり感
こんな子が乞食みたいに?と半信半疑で
出来上がった料理を並べた
食べ始めた多部ちゃんは目に見えて顔が変わった
よく美味しそうに食べる人がいるというが、
それの上級版みたいな表情
美味しそう、なんてものではなく、
あぁすごく美味しいんだなぁ、
幸せなんだなぁと解る顔
そして確かに一切喋らなくなって、
集中して黙々と食べてるんだけど、
作り手だからかもしれないが、
あまりに美味しそうに食べるから
話しかけてはいけないような気にさえなった
食べ終わった後も幸せそうな顔
多部ちゃんが帰ると、Aはホントに乞食みたいに
食に執着してるでしょ?と言った
俺はあんなに美味しそうに食べる多部ちゃんが
乞食にみえるというAの感性に嫌悪感を覚えてしまった
翌日多部ちゃんから
料理のお礼がしたいと連絡があった
花火大会の観覧チケが当たったから
Aさんとどうですかというもの
俺はAと花火を見る気にはなれず、
せっかくだし自分で使うようにすすめた
すると、だったらペアチケなので一緒にどうですか?と
俺は多部ちゃんと花火を見に行くことにした
花火会場は電車で一時間半の海沿い
出店も多くて、多部ちゃんはいろんなものを買って食べてた
その時に知ったんだが、多部ちゃんは
何食べてもあの幸せそうな顔で食べる
一度ゲテモノを買った時にもその顔するので、
一口欲しいとつたえたら、やめといたほうが…と言葉を濁した
一口もらったら激まずで思わず顔をしかめ、
多部ちゃんがやっぱりまずいですよね、
とお腹抱えて笑ってた
花火見た帰り道、海沿いの店で
珊瑚や貝殻を使ったアクセが売ってたので、
多部ちゃんに何かお土産買ったげるよと伝えた
すると多部ちゃん、嬉しそうにお店にかけていった。
アクセが売ってるお店ではなく、隣の海産が売ってる店に…
手にとったのは焼き海苔
私、海産すごく好きなんですよ!よくわかりましたね!
やっぱり私、好きなもの食べる時って顔に出てます?
多部ちゃん、自分が食べてる時どんな顔してるのか
知らないんだと気づいて、もうおかしくって、
暫く腹抱えて笑ってしまった
その後歳月が過ぎ、多部ちゃんは二人の娘に恵まれた
二人とも多部ちゃんにそっくりなんだけど、
更に衝撃的だったのは食べるときのあの表情、
そこまで二人はそっくり受け継いだこと
ある日長女が結婚を考えてるという男性を連れてきた
ガチゴチに固まってる男性に、
娘のどこを好きになったのか聞いてみた
すると、パティシエ目指してる
自分のケーキを食べるときの、
最高に幸せそうな顔に一目惚れしたと
しかもその顔してることを本人が気づいてなくて、
そこが面白かったこと
長女は本当は甘いものが苦手で
洋菓子は殆ど食べないんだが、後からそれを知って、
苦手なものでも幸せそうに食べる姿に
とことん惹かれたと言っていた
俺が多部ちゃんに惹かれた理由と
全く同じで、これまた衝撃だった