現在アメリカ留学中ですが,
少し前にあるアメリカ人の初老の男性と
話をする機会がありました.
「お前は日本人か?」
「そうです」
「そうか・・・日本人か.父は日本人と太平洋で戦った.」
「はぁ.」
「日本人の君に,聞いて欲しい話があるのだが...」
「子供の頃,自分の一番の楽しみは,
土曜日の朝にテレビでアニメを見ることだった.」
「その頃は,当然だがまだ白黒テレビで,
窓においたアンテナをうまく調整しないと電波が入らない,
そういうテレビしかなかった. 」
「その頃にどんな番組を見ていたのか,
今ではほとんど覚えていない,
が,ひとつだけ,
今も忘れられない素晴らしい番組がある. 」
「その番組が見れるのは,
本当に大気の状態がよいときに,アンテナを正確に
クリーブランドの放送局の方向にあわせた時に限られた.」
「あんなに素晴らしい物語は,
あれよりあとにも見たことがない.
ロボットたちが人間のように考え苦悩し
悪役のロボットたちにさえ,
とても悲しい物語があったのだ. 」
「あれは,単なるアニメではない.
もっと哲学に近い何かがある物語だった.」
「未来の世界を描いたものだった.
主人公はロボットの少年で,
自由に空を飛ぶことが出来るんだ.
そう,少し変わった髪形をしていたな...」
老人がそういいながら手元の紙に書いた絵は,
浜田画伯よりは少し上手な鉄腕アトムだった.
「しかし私はあれが日本のアニメとは知らなかった.」
「日本は,野蛮で乱暴で,
戦争に負けてボロボロの国だ,と信じていたんだよ. 」
「こういっては気を悪くするかも知れんが,
あの時代の少し前までは
『日本製品』というのは粗悪品の代名詞でな... 」
「もちろん,今では,アストロボーイが
日本のアニメであることは知っているよ. 」
「だが一つ,まだ気になっていることがある.」
ここで彼は少しだけ沈黙した.
「あの少年の名前は『アトム』というのだね?
そして妹は『ウラン』だ. 」
「なぜなのだろう.
やはりヒロシマやナガサキに関係があるのかね?」
僕は
「手塚治虫がどう考えていたかは知らないが,
おそらく科学が持つ光と影を
最もよく体現する名前として,原爆を連想させる
「アトム」や「ウラン」を選んだのだろう」
と答えた.
「そうか...」
老人は長いこと沈黙し,また語りだした.
「戦争中,そして戦争後もしばらくは,
日本は文明を持たない野蛮な国だと教えられていた.」
「しかし,日本人は,アメリカが
この先何年たっても生み出せないような素晴らしい作品を
今から何十年も前に生み出すことの出来たような,
本当に洗練された文化を持った国だった. 」
「我々は,そんな国に原子爆弾を落としてしまった...
アメリカが文明国を名乗るに値しない野蛮な人種なことを,
自ら証明してしまった... 」
「しかし,日本は今もアメリカにとって
最大の友好国として付き合ってくれている.」
「日本人は,アメリカを許してくれたのか?」
僕には,ただ
「日本人は,あの戦争を,
悲しい記憶としていつまでも忘れることはないでしょう.
が,アメリカを憎悪し永遠に許さないことが
建設的であるとも思いません.」
としか言えなかった.
もっと色々なことが言いたかったのだが,
どうにも言葉にならず,
さらにそれを英語で伝えるのは不可能だった.
老人はそれを聞いて,
「本当に申し訳なかった.父たちを許してくれ.」
と言った.
また
「一度,日本人にこの話を聞いて欲しかったんだ」とも.
長くなりましたが,結論は「治虫GJ!」ということで.
その老人(といっても60前後だけど)は
ドイツ系アメリカ人だっていってたから,
たぶん両方の視点に立ってものが見れたんじゃないかな.
嫌な目にも会ったろうし,それで過度に同情的なのかも.
普通のアメリカ人は
「WW2?
ジャップがハワイを不意打ちしやがったから,
ちょっと懲らしめてやったのさ.
俺たちゃ正義だ,ヤホーイ.」
って感じです.
贖罪の念なんて,もうこれっぽっちも.
まぁ,そういう人がすべてじゃない,ということで.
雑誌かインターネットか知らないが,
何かのメディアでアトムを見て,
それで日本のアニメだと最近知ったらしい.
それから色々と調べたらしいから,
その途中で原作にも触れたのかな?
実は「クリーブランド」はちょっと変えてある.
そういえば昨日くらいから,
ナウシカのDVDの宣伝をやってるよ.
最初にアメリカに輸入されたときには,
原作を切り貼りして
勧善懲悪アクション巨編にしちゃったんでしょ?
オリジナルが入るのはこれが初めてなのかなぁ.
そのうち,我が家でやった
「となりのトトロ」鑑賞会の顛末も書きます.
留学中の院生です.
どこの国でも大学院生はオタク親和性が高いもので,
日本アニメを見たことがある同級生は結構多い.
ところが,平均的なアメリカ人にとっては
「アキラ」や「Ghost in the shell」のような
サイバーパンクこそがの日本アニメである.
したがって彼らに宮崎作品の感想を聞くと
「あれはあくまで子供向けであって,
俺はそんなくだらないものは見ない」
という反応が返ってくることが多い
(もちろん日本アニメならなんでもOKの
ディープな奴も結構いて
「犬夜叉の兄の名前はなんだったかな?」
などと質問してきて閉口する).
このような不理解と偏見を打ち砕くべく,先日我が家で
「となりのトトロ」上映会を敢行した.
強制的に呼び集められた友人たち
(アメリカ人,イタリア人,中国人)が
黙然としてテレビの周りに座り込む.
宣伝が終わり本編が始まると,
最初に流れるのは有名なテーマソング
「歩こー歩こー,わたしはー元気ー!」である.
そのあまりに童謡的な曲調と絵柄に,
アメリカンが早くも脱落しかける.
みんなでバーにビール飲みに行こうというのを宥めすかし,
「この,どうみても子供向けの映画に,
日本のアニミズム的宗教観の全てが詰まっておるのだ.
これは日本文化を理解するのには不可欠な,
本当にシリアスな名作なのだ.
さらに言おう,登場人物は最後には全員死ぬ」
などと虚実を織り交ぜた熱弁を振るい,
何とか席に着かせる.
しかし話が進むうちに,
最初投げやりだった彼らもどっぷりと引き込まれていく.
日本式家屋,神木の注連縄,稲荷,地蔵,
農村風景のいたるところが興味深いらしい.
さらに作品の終盤でメイが迷子になり,
サツキがそれを必死で探すシーンなど,
涙も拭わず見入っている.
かと思ったらアメリカ人が
「もういい沢山だ,止めてくれ.
この子もお母さんもみんな最後に死ぬのかと思うと
可哀想で見ていられない」
って簡単に信じてんじゃねーよ!
結局,全員が深く感動しての散会となった.
そのうち二回目の上映会を開催する予定である.
次回も無難に「千と千尋」あたりを見せようか,
あるいはいきなり
ファーストガンダム劇場版を見せてみようか,
などといろいろと思案中.
「蛍の墓」?あの話,嫌いだから却下.