子供の頃、近所に『鬼婆』とよばれている老人がいた。ある日鬼婆の庭のひまわりに見とれていると

私が子供の頃、近所に『鬼婆』とよばれている老人がいた。
町内では有名なお婆さんで、成人男性ですら怖がって近づかない。
同じくキチで有名なモンペも尻込みする程。
このモンペ母娘が鎌を持った鬼婆に追いかけられて
泣いて謝っているのを見たときは本当に驚いた。

割と広い平屋に様々な花を植えて一人暮らしだったと思う。
少しでも庭に侵入すれば血祭りは当たり前。
私の母は絶対に鬼婆には近づくなと再三に渡り言い聞かされた。

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ある日、ふと鬼婆の家の前を通ったときに、
庭に咲き誇るヒマワリに見とれてしまって、
庭の入口からぼーっと眺めていた。
はっと我に返ると目の前に鬼婆が仁王立ちしてた。

さーっと血の気が引いて、大袈裟かもしれないが、死を覚悟。
恐怖で体も口も動かず涙だけがこぼれ落ちる。
すると鬼婆は、無言でひまわりへ向かい何かを回収。
少し汚れた巾着袋にそれを入れて私に投げ渡した。

「庭を耕して卵の殻か貝殻を砕いたものをばら蒔いて、
そこにこれを埋めてみろ。綺麗に咲くから」

と言って家の中に戻って行ってしまった。
巾着袋の中身はひまわりの種だった。
私は聞こえるかわからなかったが、
大声でお礼を言いました。

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それ以来めっきり鬼婆を見かけなくなった。
近所の人も不思議に思って、町内会長が鬼婆の自宅を訪ねてみると、
鬼婆は仏壇の前で亡くなっていたそうだ。
死後何日か経過していたらしく、完全な孤独死。
怖がって誰も近づかないから死気づく人はいなかった。

仏壇には若い青年と若い女性のツーショット白黒写真があったそうだ。
父が言うには、青年は旦那さん、女性は鬼婆。
私の祖父ですら鬼婆は独り身だと思っていたので、
おそらく若くして何らかの理由で亡くなられたんだと思う。

鬼婆の気性が荒いのは昔からで、
何を理由にそうなったのかはわからない。

私も先入観で鬼婆が怖くて仕方がなかったが、
ひまわりの種を渡された時の笑顔は忘れられない。

そのときのひまわりは咲いては種を回収、
また植えるの繰り返しで今でも綺麗に咲き誇っています。
私→息子で繰り返し植えているので、
来月産まれる孫にも続けて欲しいなと思っている。

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