うちの辺りは山切り崩して宅地造成した所なんで、
道路の片側が高いコンクリの壁になってる所が多い。
そういう壁の放水口ってのは(通る水の量もすごいから)
結構大きくって、大体幅20センチから30センチ位のが
一定間隔で口を開けてる。
大雨の時なんかはそこから物凄い勢いで水が吐き出されて、
下の道路を水浸しにする。
昨日帰宅する時、そういう道を歩ってたんだが、
ふと横手の壁を見上げると、道路から5メートルくらい
上にある放水口のひとつから、猫が生えていた。
どうやら放水口のもう一方の端から潜り込んで出口まで
這い進んで来たのだが、頭と前足まで出た所で、出口が
予想外に地上から遠かったんで、そこですくんじゃったらしい。
猫は観念した様子で所在なげに景色なんぞを見ていた
が、下から俺が見上げてるのに気付くと一声「にゃー」
と鳴いてみせた。
丁度夕立が来そうな頃合いで、ここで放水が始まれば
猫は水鉄砲に吹き飛ばされて下の道路に激突するだろう。
面倒だけど助けてやるかと思って早足で家に帰り、
脚立をかついで戻ってきてみれば、
そこには既に救援隊が到着していた。
小学生らしきガキどもが5~6人、猫の真下の壁に
群がってる。
いや、群がってるというのは正しくない。ガキ共は
最初コンクリートブロックの壁をよじ登ろうと
していたらしい。一人だけ結構上の方まで昇って、
そこでにっちもさっちもいかなくなってるのがいる。
二重遭難だ。
他のガキどもはもう少し知恵を絞っていた。
まず一番体格のいいのが壁に手をつき足をふんばっている。
そいつの肩に別の一人が足をかけ、同じ様にふんばってる。
更にそいつの肩の上に、もっと小柄なやつが今まさに
足をかけてよじ登ろうとしている所だった。
お前らは上海雑技団か。
結局小学生による人間梯子は、4段目が完成した所で
猫に届いた。一番上のやつがぐらぐらしながら猫に
手を伸ばすと、猫の方が勝手に飛び出して来て、
小学生たちの肩や背中や手を伝って器用に地上に降り立ち、
そのまま一目散にどこかに逃げて行ってしまった。
結局、俺が持って行った梯子は、ガキ共の人間梯子を
解体するのと、セミみたいに壁にへばりついてた、
二重奏難した小僧を降ろすのに使っただけだった。