小学校低学年の夏休み、葬式だか法事だかで、
母方祖父母の田舎に出向いた時の話。
久しぶりに集まったいとこ連中と外遊びしてて、
テンション上がりすぎて、近寄るなと言われてた池のふちの縁石みたいなとこで
「綱渡り~」とかアホなことして見事に池ポチャした。
藻の生えた青臭い泥水を思い切り飲んで、
もう何がどうなってるのか分からない恐慌状態とはこのこと。
え、死ぬの?死ぬ!?嘘嘘、死んじゃうの!!??
私死んじゃうぅ!!??
ってパニックでひたすらバタバタ。
そしたら突然、最年長の中1のいとこ(以下お兄ちゃん)が、
「パニックパニックパニックみんながあーわーててーるー!!!」
って、とてつもないデカイ声で某幼稚園児アニメの曲を歌い出した。
溺れかけてるのも忘れて、私ポカーン。
あとで聞いたら、周囲で「私ちゃんが落ちた!」
と慌ててた他のいとこ達もポカンとしたらしい。
まわりが唖然として静かになったら、
お兄ちゃんは歌うのをやめ、池の縁から私を覗いてニコッと笑った。
「ちゃんと掴まって浮いてるな、えらいぞ!」
言われて初めて、私は自分が池の端のコンクリートの溝にしがみついて、
溺れてないことに気づいた。
その池は長いこと放置されてたので、
回りを固めたコンクリートが劣化して崩れ、
手で掴むことができる凸凹があったんだよね。
隙間から草も生えてて、いつの間にか私はそれらを
ガッチリ掴んでセミみたいに池の縁にくっついてた。
そこからのお兄ちゃんとの会話は、今でも覚えてる。
「どっか怪我した?痛いとこある?」
「ない…と思う」
「水は冷たい?」
「ううん」(猛暑でむしろ水は温かった)
「そっか。なら、すぐには死なないな!助かるぞ!良かったな!」
ニコニコと何でもないことのように笑うお兄ちゃんの顔を見たら、
すーっと気持ちが落ち着いてくのが分かった。
え…死なな…え、死なないの?私、死なないの?死なないのね!
みたいに、理屈はさておき、すごくホッとした。
そこからお兄ちゃんは、他のいとこに大人を呼ぶよう指示し、
親たちが助けに来るまで、ずっとニコニコしながら私に話しかけてくれた。
父やおじさん達に救出されたときも、
なんかすっかり気持ちが落ち着いてしまい、
ケロッとしてた。
で、怪我はないかと慌てふためく大人をよそに、
呑気に(そうだお兄ちゃんに助けてもらったお礼言わなきゃ)
と思ってそちらを見たら、
さっきまで笑顔だったお兄ちゃんが、
真っ青な顔でガタガタ震えて声も出さずに泣いていた。
あとで聞いたんだけど、私が池に落ちたとき、
誰よりもパニックになってたのはお兄ちゃんだったらしい。
私ちゃんが死んだらどうしよう、
年長者の自分がしっかり見てなかったせいだ、と、
目の前が真っ暗だったと。
でも、自分が慌てたとこを見せたら、
もっと私が不安がると思って、無我夢中で
こちらを落ち着かせようとしてくれたらしい。
小学生の自分からしたらお兄ちゃんはすごく大人に見えたんだけど、
たかだか中1だもん、そりゃ怖いよね。
とにかく私ちゃんが無事でよかった、と泣くお兄ちゃんを見て、
それまでの恐怖が一気にこみ上げ私号泣。
成り行きをみてた他のいとこ達も号泣。
遅れてかけつけた母が私にむちゃくちゃ本気のビンタをかまし、
怒鳴りながら大泣きして抱き締められ、そこでも私号泣。
あんなに魂振り絞って泣いた夏はあとにも先にもなかったように思う。
こんな経験があるからか、大人になった今でも
母方いとこ連中とは大の仲良しだし、
お兄ちゃんに至ってはいとこ全員からずっと尊敬され続けている。
お兄ちゃんが結婚したとき、
初恋やぶれてコッソリ泣いたのは私の墓場話。