「人が死ぬ瞬間の顔って、なんというか、
壮絶な顔というか、物凄い物を想像しちゃいますけど、
実際には違うんですよね」
という会話を聞いたそうだ。
友人の先輩が、行き付けの居酒屋での事だった。
話を聞いていると、隣の客は、
どうも私鉄に勤務する運転手の様だったらしい。
「飛び込み自殺なら覚悟の事でしょうから、
たいてい目をつぶってたり、下を見たままで顔は見えないんですけど、
事故で転落した人の場合にはね、はっきりと顔が見えるんですよ。
迫ってくる電車をキッと睨むんです」
話によると、そういう人は、
最初はそれこそ物凄い顔をしてるんだけど、
最後の瞬間に『ああ、自分はもう助からないんだ』と瞬時に分かって、
何ともいえない無表情になるのだそうだ。
「コレ聞いてさ、妙に説得力が出たんだけどな」
そう言って先輩は、友人にコピー用紙を見せてくれたそうだ。
友人と先輩は大学の写真部だったのだが、
心霊写真に凝っていた先輩が見せてくれたのは、
水中カメラマンの写真だった。
先輩によると、行方不明になった水中カメラマンの、
最後の写真なのだそうだ。
『捜索によって発見されたカメラを、遺族が現像した物』
というふれ込みらしいその写真には、
男の顔のアップが写っていた。
「な、確かに無表情だと思わねえか?」
と先輩が言う。
男の顔は穏やかというか無表情なのだが、
だからと言って、コレが男の死ぬ瞬間とは言えないじゃないか?
証拠も無いし。
友人がそう反論すると、先輩が言った。
「ま、オレもそう思ったんだけどよ。
この写真の次に写ってたらしい写真に、
『サメのアップが写ってた』というウワサが有るんだってよ」
勿論、そのサメの写真は先輩も持っていなかったのだが、
ウワサによると、男のアップの次のショットには、
男の顔の後ろに大きなサメの顔が写っていたらしいのだ。
それで、電車事故の話を偶然聞いて、
説得力があると思えたらしい。