職場にプライベートでは一切メディアとネットに触れない
20代のAさんがいた。テレビも新聞も見ないらしい。
それだけ聞くと常識が無いと思われるかもしれないけど、
Aさんは家庭に認知症の父と知的障害の従兄弟がいて
二人の介護をしており、
プライベートではとてもじゃないけどメディアに触れてる余裕がないらしい。
仕事が終わると飛ぶように急いで家に帰る姿は職場でも有名だったのと
時折◯られたり引っかかれたり噛みつかれたりするみたいで、
顔とか見える部分に大きなアザやキズを作ってることもあったから、
家庭でDVにあってるんじゃないかと
入社当初から皆がかなり心配していた。
Aさんはこういう家庭事情なんですと話してくれたけど、
話してくれるまでAさんの家庭がそんな過酷な環境だとわからないくらい
Aさんは普段明るい人だった。
Aさんの家はテレビがなく(倒されて危険らしい)、
携帯は知的障害の従兄弟に壊されるので
買い換えるお金もなく持たなくなったらしい。
なので休憩時間に職場のパソコンから天気予報とか
必要最低限の情報のみを読み取ってる。
そんなAさんなので、最近流行ってる「うっせえわ」も人に教えてもらうまで
知らなかった。
車で移動する際に同乗した1人がスマホと連動させて
音楽を流してたんだけど、その時に「うっせえわ」が流れたのでAさんに
「この曲知ってる?」と話を振った。
Aさんは「なんか聞いたことあるような」と
しばらく音楽を聞いたあとピンとひらめいたらしく、
「あ、ボカロが量産されてたときの曲の一つ?
マトリョシカとかパンダヒーローとかロンリーガールの流行り曲に似てる」
と持てる知識を振り絞って答えてくれた。
「それ作ったの米津とwowakaだから違うよー。
Aさんの流行り曲だいぶ古いなw」
と話してたら
「それ流行ってたときは高校のクラスメイトがよく一緒に音楽聞かさてくれたから
比較的よく知ってる。お昼休みも放送で流行りの音楽ながしてたから。
米津げんじさんって歌手だよね?あの人の曲、ボカロっぽいと思ってたけど、
ボカロの曲も作ってたんだ!知らなかった!」
と凄く感動してた。
げんじじゃなくてけんしだよ!と突っ込んだら
凄く恥ずかしそうにしてた。
私はこの会話から、Aさん音楽好きなのに、
10年近く好きなものに触れる余裕のない生活をしてたのかと
ちょっと切なくなった。
一方で音楽を流してた子が横でこの会話を聞いてて、
「カマトトぶってんじゃねぇよ」とキレだした。
どうやら「うっせえわ」を米津の曲と間違えられたのを
脳内で「米津のパクリ」といわれたと変換しており、
あと量産曲といわれたことが貶されたと思って気に食わなかったらしく、
うっせえわを作った人がボカロPだと知ってて貶してんだろ、
使い捨て曲とでも言いたいのかとAさんに食って掛かった。
だけどAさん、「ボカロピーって?」とそこから話が噛み合わず、
拳を振り上げた方は今度振り下ろすことができず、
一気に車内の空気は悪化。
でもぶっちゃけ私もうっせえわはパクリとは言わずとも
マトリョシカに似てると思ってたし、
10年前の流行りがまた一週して戻ってきたようなもんだと思ってたから、
10年前の流行りで止まってるAさんにキレ散らかして
食ってかかる方が神経わからんかった。
その後Aさんと二人で「最近の流行り曲だと何がわかる?」と
話してたんだけど、
Aさんがあげたのが「アナ雪のレリゴーってのと、君の名はのゼンゼンゼンセって曲」
だったんだよね。
「鬼滅の刃は知ってる?」と聞いたら、
名前と商品化してるからイノシシとかがいるのは知ってるけど、
音楽はわからないと言ってた。
OPを流したらサビだけかろうじて知ってる程度。
現代に生きていてもメディアやネットに触れないと若者でも
ここまで浦島太郎になるんだって衝撃だった。
むろん行政の手助けは借りてるみたいだよ。
でも手グセの悪いヘルパーに当たったり
ケアマネが契約のハンコ(ケアマネの収入源)貰うとき以外
まともに連絡とれなかったり、
そもそもケアマネが二重介護の大変さに理解がなかったりして、
思うようなサポートを受けられてないのが現状みたい。
あとやっぱり金銭面の問題で、ヘルパーを十分に雇えないんだって。
従兄弟は従兄弟の母親が知的障害あったんだけど、
軽度だったのと昔はそういう理解がなく見逃されてたみたいで
いつの間にか妊娠してて、おろせる時期も過ぎて、
産んだら母親の知的障害が色濃く出てしまったらしい。
母親の方は手帳とか持ってなくて、
そもそもサポート受けるという頭も無くて、
従兄弟の祖父母にあたる人は病んじゃって入院。
それで引き取らざるを得なかったんだとか。
昔は無邪気で可愛い男の子だったらしいんだけど、
成長するにつれて精神障害も発覚して、昼夜逆転。
知らない人を見たり思い通りにならないとパニック起こして
暴れる蹴る噛み付く引っ掻くとすごい状態になるんだって。
だから外にも出せず、サポートもつけられず、ってことらしい。
こちらもデリケートな問題だから詳しく聞くわけにもいかないし、
専門じゃないからどんなサポートあるのかとかも知らないしさ。
介護経験ある人でも障害者育ててるって人も会社にはいないし。
Aさんの「職場にいて働いていられる時間が唯一の私の時間なんです」
って言葉が皆に重くのしかかってるよ。
本当なら仕事してる余裕なんかもないんだろうけど、
父と一緒に一家の大黒柱として稼いでるんだって・・・。
私もややこしくて全部認識できてるわけじゃないんだけど
認知症の父=実の父
現大黒柱の父=養父(Aさんは父と呼んでる)、らしい。
実の父はAさんが物心ついた頃からすでに認知症の傾向が出てたらしく、
子育てなんて無理な状態だったみたい。
それで政治家の小泉家みたいな家庭になったと言ってたから、
親戚の誰かが養父になってるんじゃないかな。
養父は従兄弟の血縁者でもあるらしい。