実家の近所で実際に起こったことなので、
多少ごまかし入れてます。
当時、私は家業を手伝っていたのですが、
ある日、事務所で仕事をしていると、どうも表が騒がしい。
何かと思って玄関を開けると、2歳にならないぐらいの子どもと、
その子を抱っこした私の幼なじみ(以降A子)がいて、
2人を近所の数人が取り囲んでる。
特に、そのうちの1人、60歳ぐらいの女性が異様で、
「あー!あー!」
と子どもを見ながら叫び続けてた。
何事かと思ってA子に声をかけると、
「救急車がもうすぐここに来るはずだから」
と言う。
A子は結婚していて1歳半になる子がいたけど、
そのとき彼女が抱っこしてたのは違う子で、
私には状況が全くつかめなかった。
それでも、冬なのに子どもが上着を着てなかったし、
子どもの顔色がどんどん紫色に変わっていくので、
自宅からバスタオルを何枚か持ってきて
体を覆ってあげたりしてた。
そうこうしているうちに救急車が到着、
A子と子ども、叫び続けている女性が乗り込み、
行ってしまった。
数日後、A子から話を聞くと、
およそ次のような内容だった。
A子はその日、自分の子どもをベビーカーに乗せ
て近所を散歩していると、
道沿いの一軒家から女性の叫び声が聞こえた。
その家には60代のご夫婦がお住まいで、
平日の昼間は近所に住む娘夫婦の子どもを
預かっているとのこと。
その道はA子家族がいつもの散歩コースにしていて、
あいさつや軽い世間話を交わしたり、
子どもどうしをちょっと遊ばせたり、
なんてこともあったらしい。
で、聞こえてくる叫び声からただならぬ感じがしたし、
顔見知りでもあったので、思い切って玄関を開けて
声をかけると、奥からおばあちゃんが子どもを
抱えて出てきた。
最初は要領を得なかったが、話の断片をまとめると、
どうやら子どもが何かを誤飲したらしく、
息が出来ない状態に陥ってしまったようだ。
とりあえずそうじ機を持ってこさせて
吸い出そうとしたけど効果がなく、救急車に電話。
私の家の前に来たのは、
救急車を呼ぶ際に説明しやすかったからだったとか。
その後、近所の人から聞いたところによると、
子どもが誤飲したのは「ピーナツ」。
前の夜、おじいちゃんとおばあちゃんが
柿ピーを肴に晩酌してて、ピーナツが知らぬ間に
こぼれ落ち、こたつ布団に紛れたみたいなんだよね。
次の日に、孫が見つけて誤飲、縦向きに
飲み込んでいれば良かったものの、
横向きだったためにそうじ機や病院の
吸引機でも吸い取れず、器官を切開して
やっと取れたんだそうだ。
結局、その子は一命を取り留めたものの、
意識が戻ることはなく、いわば植物状態。
娘夫婦はこれが元で離婚し、お母さんが働きながら看護。
おばあちゃんは重い欝病に陥り、
おじいちゃんはそちらの看護をしているらしい。
私は転職して引っ越したため、こ
の話を忘れていたが、
先日久しぶりに幼なじみと会い、
彼女の子が今年成人したと聞いたことで思い出した。
「そういえば、あのときの…」
という話になったが、
彼女は今でも同じ状況が続いていると言っていた。
些細な不注意で家族全員が20年近くも苦しみ、
それがまだ続いてるなんて、重すぎる。
「私、助けなきゃ良かったのかな」
と幼なじみが言ったが、
善意を施した人まで苦しむなんておかしいと思う。
でも、慰めの言葉が見つからなかったよ…。