携帯なんて普及されてないくらいの昔
当時俺はイジメられていた
なんでイジメられるようになったのかはよく覚えていない
ただ、いつの間にか同級生のA子
そしてA子に惚れてるのか、
いつもコバンザメのようにくっついて歩いているB男
この二人は毎日のように俺をイジメて来た
最初こそ無視や悪口、机の落書きなんて言う
テンプレ的な事をされていたが
俺が慣れてくるとその内容は
徐々に陰湿なものに移行していき
ついにはクラスメイトの物をわざと盗んで、
俺に罪をなすりつけるような事をし始めた
もちろん俺は否定したよ
「違うボクはやってません」って
でも盗まれた物は俺の机から発見されたので、
誰も俺の言うことを信じてはくれなかった
それに味をしめたA子とB男は
他クラスの生徒の持ち物を俺の机に入れたり
俺のハサミを使って
図工の時間に作った工作品を破壊したりして
全部俺のせいにした
そのうち俺は学校の問題児として扱われ、
両親からも白い目で見られるようになった
無理やりカウンセリングにも行かされたっけかな
学校に行けばA子B男にイジメられ
先生からは煙たがれ、
クラスからはハブられ友達なんて一人も居ない
家に帰っても父親も母親も弟も話しかけてくれない
一日誰とも話さず殆ど声を出すこと無く過ごす日々に、
俺は耐えられなくなっていた
「死のう」
そう本気で思った
ある日学校から飛び降りようと決心して
放課後人が少なくなってから学校に忍び込んだ
夏前なので下校時間が過ぎてもまだ日は落ちきってなくて
俺は死ぬ前に身の潔白を証明する為の
遺書みたいなもんを書いてた
「ボクは何もやってません
全部A子B男がやったことです
誰かしんじてください」
こんな感じだったかな
そして、書き終えた遺書をポケットに入れて
どこから飛び降りようかな~なんてことを考えてた
丁度その時チャイムが鳴ったんだ、よく覚えてる
18時のチャイムだった、
それを聞いて俺は「ハッ」とした
いつも見ているアニメがそろそろ始まる時間だったんだよね、
それを思い出したらどうしても続きが気になってしまった
だから俺は自殺を一旦保留して急いで家に帰宅
(自宅は学校から走れば5分で行ける距離)
そんでTVの前でアニメを見た
面白かったんだよね、
面白くて次回が気になってしまった
どうしても来週も見たい、最終回まで見届けたい
そう考えるようになったらさ、
死にたくなくなっちゃったんだよね
でも、死なないと明日も明後日もイジメられる、
それはどうしても嫌だった
ずっと考え込んでいたら丁度サスペンスドラマやっててさ、
犯人視点のドラマだったんだけど
その犯人は殺人を犯して捕まらないよう色々工作してたんだ、
それを見て「コレだ!」と思った
A子とB男を抹殺してやればいいんだってそう思った
翌日から色々プランを練ったさ
どうせやるんなら完全犯罪がいいってそう思った、
バカ二人のために捕まりたくなかったから
殺人計画なんて今思うと頭おかしい考えだったけど、
当時の俺にとって、
それはそれは素晴らしいアイデアだったんだ
どうやれば確実に息の根を止められるか、
どうやれば逃げられるか
子供の脳みそで色々考えたさ、
ほんとその時はもの凄く楽しかった
楽しすぎてイジメや学校での無視なんて
どうでも良くなった
どうせ俺は厄介者なんだから
今更何しようと評価は変わらない
そう思ったらむしろ気が楽になっていた
そうして俺の殺人計画はついに完成した
注目の内容はこうだ
1.A子のふりをしてラブレターを書く
2.B男の机に手紙を入れて学校に呼び出す
3.A子を当日学校近くまで呼び出す
4.B男を椅子で殴って抹殺する
5.逃げて家に居たふりをする
おおまかな流れでこんな感じ
今思えば無茶苦茶な内容だったが、
子供の俺にはまさに天才犯罪者の完璧なプランに思えた
そして計画実行のために俺は下準備を始める
手始めにA子の机からノートを盗んだ
生まれて初めて人のものを盗むんだけど、
不思議と全く罪悪感はなかった
A子の物だからってのもあるけど、
俺は盗み癖のある問題児なんだからって
開き直っていたのかもしれない
家に持ち帰ってそのノートの筆跡を頑張って真似た、
偽のラブレターを書くために
それと同時に決行する日を決めるため
A子とB男の行動を毎日調査してみた
B男は簡単に呼び出せそうだったが、
A子は行動パターンが気まぐれで行動を絞りづらかった
それでも粘った結果、
A子がある曜日だけ確実に家にいる時間を見つけた
そして全ての準備が揃い
俺は殺人計画を実行に移すことにした
今でも鮮明に覚えてる、夏休み少し前のあの夏い日
俺は風邪引いた熱があるって母親に訴えた
母親は特に気にもせず学校に連絡して
俺は2階の自分の部屋で休むことになった
家で俺は「いない」ような扱いのため、
熱出して休もうが気にもされなかった
この時ばかりはそれが有利に働いた
俺は興奮していた、
前の日に完成した偽ラブレターを
こっそり下校したB男の机に忍ばせておいたからだ
内容はいたってシンプルなもの
「B男に大事な話があります、
放課後18:00に一人で
中庭のパンジー花壇の前に来てください」
何故中庭パンジー花壇前なのか?
それは後でわかるのでここでは割愛しておく
そして運命の下校時刻がついに訪れる
俺はパジャマから普段着に着替え、
隠していた運動靴を履き準備を整え2階の窓を開ける
うちの自宅には大きな柿の木が生えているのだが、
実は俺の部屋の窓からその木に乗り移れる
窓からジャンプして木にしがみつきそのまま外へ
まず向かったのは電話ボックスだった、
A子に連絡をつけて学校に呼び出すためだ
普段A子は友だちと遊んだりしていて
帰宅時間は定かではないが
ドラマの再放送を見る日だけ速攻で家に帰る、
その日を決行日に選んだ
A子宅に電話をかけると運良くA子が出た
A子「もしもしAです」
俺「もしもしA子ちゃん?ボクC太だけど」
A子「C太くん!?どうしたの!?」
C太はA子が片思いをしているクラスの男の子、
俺はうまくそいつに成りすまして電話をしたのだ
俺「A子ちゃんに大事な話があるんだ、
今日の18:00に学校の体育館前(中庭と逆方向)
で会えないかな」
A子「え、え、大事な話って何?」
俺「A子ちゃんに気持ちを伝えたいんだ、
だから一人で来てくれないかな」
A子「あ、うん!絶対に行くね!」
こうして俺はA子の呼び出しに成功した
今思えばA子じゃなく親が出てたらどうするんだとか、
C太と全然声似てないのに騙せるのかって
突っ込みどころ満載だが
その時はびっくりするほどスムーズに事が運んだ、
きっと悪魔が祝福してくれてたんだろう
事がすむと、
俺はその足ですぐさま学校に向かって走った
学校までは5分位でつく、
大体18時の10分位前に裏門に辿り着いた
裏門には職員用の通用口がある、
そこは最後の先生が帰宅するまでずっと開いている
裏門から侵入してそのまま階段を登って3階へ、
ある教室の前に到着する
その教室は予備教室みたいな部屋で
鍵が閉まることはなく常に開いている
そして、予備教室の真下が中庭のパンジー花壇なんだ
ベランダに出て下をのぞき込むと、
B男が突っ立っていた
全て計画通りだった、
ベランダには前の日に用意していた椅子が置いてある
俺は静かに椅子を持ち上げた、
B男は全く上に気づいてなんかいない、
ずっと偽のラブレターを見ていた
意を決した俺は持ち上げた椅子を、
3階からB男へ思いっきり投げつけた
ドンッ!!という鈍い音の後
ガゴンッと椅子が転げる音がした
俺は予備教室を離れ
学校から脱出しようとダッシュで逃げ出した
遠くから
「あ゛ぁぁあ゛あああぁぁぁぁぁ
い゛でぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
い゛でぇぇぇぇぇぇ!!!」
ってなんか豚みたいな鳴き声が聞こえてきたが、
まったくもって冷静に俺は行動していた
裏門から脱出してそのまま家に向かって走る、
誰にも見つからないようにとか考えてなかった
とにかく走った
家についたら見つからないように木を登って
上手く自分の部屋に戻ることに成功した
部屋は俺が外に出ていったままの状態だ、
誰も外にいる間入ってくることはなかった
家族からハブられていたのが
ここでも有利に働いてしまっていた
呼吸を整えたあと俺は台所まで降りる
台所では母さんが夕飯を作っていた
居間では弟がTVを見ている
俺「母さん夕飯は?」
母「まだ18時でしょ早いわよ」
俺「喉乾いたからお水頂戴」
母「コレ飲んだらさっさと2階で寝てなさい」
俺「弟何見てんの」
弟「・・・(無視)」
母「できたら呼ぶからさっさと上行け!」
俺「このアニメ見たかったんだけどなーちぇ」
もちろんこの会話も計画のうち、
いわゆるアリバイ工作ってやつだった
コレが後々実に役に立った
こうして俺の殺人計画は無事?終了した、
B男が死んだかどうか確認してなかったが
俺の心は晴れやかだった
次の日は普通に登校したが、
今までの憂鬱が嘘のように晴れやかな心で登校できた
何というか、結果はどうあれやりきったことに対する
満足感みたいなものがあったのかな
正直警察に捕まって刑務所に入ってもいいくらいの
晴れやかさだった
教室に入るとB男がいないA子もいない、
B男は死んだかな?生きてるかな?と、
ドキドキしながら先生を待った
しばらくして先生が入ってくる、
かなり元気がなかったのを今でも覚えてるよ
「B男君はしばらく入院します、
昨日学校で大怪我を負いました」
この知らせを聞いた時ちょっとがっかりした、
何だ死んでないやって
俺の殺人計画は重大なところで
失敗をしてしまったみたいだ
(ドラマでは簡単に死ぬからさ)
その日は一日がっかりしながら過ごすことになった
しかし次の日、
俺は両親とともに校長室に呼び出された
校長室には校長と教頭、担任と知らないおじさん数人、
B男両親、A子とA子両親もいた
もちろん議題は先日の事件について、
事件のあらましはこうだ
B男は朝登校すると
机の中に手紙が入っていることに気づく
その手紙はA子からの手紙で
内容は18時に学校で待っていてくれとのこと
B男は手紙に従いA子を待っていたら
椅子で殴られ重症を負った
コレにA子は猛反発
「私はそんな手紙書いてない!私はやっていない!」
しかし、B男両親はB男が持っていた手紙を見せる
可愛らしい字で書かれたそれは
間違いなくA子のものであった(偽造だけど)
A子両親は娘の字と全く同じ物のため
A子に疑いの目線を送る
それでもA子は否定を続け
「俺君がやったに決まってる!」
罪をなすりつけようとしてきた、なんて女だ
先生や俺の両親、見知らぬおっさん達も
皆一斉に俺を見た
だが俺は至って冷静だったよ、
だってこうなることは予想出来ていたからね
「ボクはその日学校休んでずっと家に居ました、
お母さんが知ってる」
そう、俺ははっきりと自分のアリバイを主張した
母さんも
「息子はたしかに家に居ました、
殴られたのは18時?
その時間は降りてきて弟と話してました」
A子は半狂乱になりながらも
「違う!俺君がやったに違いない!
全部アイツがやったんだもん!」と叫んでいた
そして、致命的な一言を言ってしまった
A子「俺君の家は皆嘘つき!家族皆で嘘ついてる!
俺君の家族皆でB男君を殴ったに違いない!!!」
俺両親大激怒!A子両親平謝り
正直俺のアリバイ証言だけじゃ
もしかしたら俺の家族は信じ切れなかったかもしれない
俺はとんでもない嘘つきオオカミ少年だったからね
でも、A子の自爆発言でもう家族は完全に
俺の言うことを信じるようになった、
A子がやったと思うようになったんだな
A子にはアリバイがなかった、
本人はC太に呼ばれて学校に行ったと言っているが
C太はそんな事言っていないという
必死になって俺に罪をなすりつけようとしていたが、
最早だれもA子の言葉を信じるものは居なかった
俺家族はその辺りで開放された、
俺自身も授業に戻されその日は普通に授業受けて帰った
次の日からA子は奇異の目で見られるようになった、
なんたって殺人未遂しでかしたからな
本人は必死にC太に呼ばれたと涙目で訴えていたが、
当のC太がその日塾に行っていて
電話かける余裕なかったんだから無理な話
しまいにはC太が嘘つきと罵りまくったが、
イケメンC太は女子に人気あったため
逆効果でA子が責められる結果に
勿論俺がやったと喚いていたが
俺は「そんな怖いことこそ泥のボクには無理だなぁ~w
それにその日学校休んでたし」とさらっと否定してやった
結局事件はA子両親が全面的に謝罪し、
治療費その他もろもろを負担することで
決着が付いたって話
夏休み明けてB男が登校してきたけど
見事に頭が禿げ上がっててハゲと笑われてたなw
あと登校初日にA子がB男に
マウントポジションで殴られて
また事件になってたけど
俺は事件の事でA子から執拗に嫌がらせ受けてると訴えて
別のクラスに2学期から編入になったのでよくはしらん
事件後の俺はもう憑き物が落ちたかのように
爽やかになったよ
今までは皆が信用できなくて
暗い顔して何かあったら必死に否定してたけど
その頃はもう別に気にもし無くなったし、
かつての窃盗なんかのことを聞かれても
軽く流せるようにはなっていた
そうなってくると周りも変に囃し立てたり
からかったりすることもなくなってさ
中学上がる頃にはもう普通に
友だちもできて悪ふざけするようになってた
A子とB男も同じ中学だったけど
中学時代は話をした記憶が無い
A子は傷害起こした生徒ってことで
皆から若干気持ち悪がられてて、
そのことに触れると激怒して暴れ始める問題児
だから、クラスでも浮きまくってて友だちがいないし、
中学で更に人気の上がったC太から嫌われてるため
話しかける奴も居ない
B男は怪我の後やたらA子につきまとうようになり
半分ストーカーじみたことやっていたとか何とか
曰く、アイツのせいで傷物にされたから
責任取ってA子は俺と結婚するべきだとか
何とか言っていたとか何とか
正直中学以降あの二人は
全くと言っていいほど視界に入ってなかったんで
よく知らないのよね
復讐になったんかどうかはわからないけど、
俺の殺人計画はこうして幕を閉じた
ただ、結局家族の溝は埋まらなかったな、
何十年たった今でも家族は俺に無関心なまま、
父も母も弟の家族もね
結婚して子供も生まれたが殆ど交渉を持ててない、
あんだけ穴だらけだった殺人計画が
こうも完璧に上手く行ったのは
悪魔か何かが力を貸してくれたからだと思ってる
だから一応これが
悪魔に魂を売った代償ってやつなのかも知れない
ちなみにA子B男のその後の行方は誰も知らない