「本当に守りたいものが出来たんだ」
と言って去っていった元婚約者?が、
7時間後に戻ってきた。
ドアの前でアワアワ言ってることを総合すると、
どうやら相手の女が略奪完了した途端に
気を抜いて寝起きのすっぴんを晒したらしく
そのすっぴんの別人っぷりに
ヤツは恐れおののいて逃げ帰ってきたらしい。
朝っぱらから
「悪い夢を見ていた、目が覚めた」
「一時の気の迷いだ」
「まさか婚約解消なんて真に受けてないよな?」
と騒いでうっとうしかったので
ヤツの父親に電話して回収に来てくれと要請、
迎えが来るまでの間、ヤツが7時間前に発した
「本当に守りたいものが出来たんだ」
「世界が一変する瞬間てわかるか?
×子(相手の女)に出会った時がそれだった」
「オマエには済まないことをした。
でも×子を一生かけて守っていくことで
せめてオマエへの償いとしたい……」
という台詞を録音したものを
ドアの隙間からエンドレスで流した。
つい7時間前の黒歴史に、
ヤツは半泣きで身悶えていた。
1時間ほどしてヤツの父親が回収に来たので改めて
「我々が子供の頃、親同士で勝手に笑いながら決めた
“許嫁”などというアホな戯れ言を
いつまでも引きずるのはやめてほしい。迷惑だ」
と重々言い渡した。
ヤツの母親と、離婚したうちの父親が同級生で
「お互いうまれた子供同士を
大きくなったら結婚させよう」
と勝手に盛り上がったのが事の発端。
うちの父はこの手の悪ノリが好きで、
おまけに引き時をわきまえない人なので
しまいに離婚された。
ヤツの父親はマトモな人なので
謝罪しながらヤツを引きずって帰って行った。
その後、略奪?女から抗議の電話が
なぜか私のところにかかってきた。
まだ腹の虫がおさまらなかったので
録音した
「本当に守りたいものが出来たんだ」
「世界が一変する瞬間てわかるか?
×子(相手の女)に出会った時がそれだった」
を電話口で聞かせてやり、
「真実の愛だね。彼を手ばなしちゃだめだよ(棒読み)」
と言っておいた。
女は元気を取り戻し
「だよね、彼を絶対あきらめない」と宣言していた。
めいっぱいおだてて励ましてから切って、
着信拒否した。
あとはアホ同士で勝手にやって欲しい。