小5のとき、通学路の交差点を渡っていたとき、
右折車が横断中の俺めがけて突っ込んできた。
催眠術にかかったように体が動かず、
突っ込んでくる車をぼうぜんと見ていたら、
(あらぬ方向を見ているドライバーの顔まではっきり見えた)
後ろから突き飛ばされ、俺は難を逃れた。
が、俺を突き飛ばしてくれた大学生は車に跳ね飛ばされた。
泣きながら近所の家に駆け込んで、
救急車と警察を呼んでもらい、
自分は警察の事故処理係に出来る限り状況説明をした。
後日、家に警察から電話があり、
大学生の入院先を教えられ、母親と見舞いに行って御礼を言った。
中学1年のとき、父親の仕事の都合で同県内の市外(というか、山の中)へと
引っ越した俺は、そこで先生となっていた件の大学生と再会した。
お互いに驚き、再会を喜びつつ、
3年間面倒を見てもらって、(なんせ田舎の分校なので、先生はずっと同じなのだ)
俺は中学を卒業し、高校進学と供に市内に戻った。
地元の教育大学に進学した俺が、
教育実習先の小学校へ向かう途中の交差点で、
自分の前を渡っている小学生の女の子に、
右折車が突っ込もうとしているのを見た。
次に、ドライバーが携帯電話でしゃべりながら運転しているのが見えた。
スローモーションみたいに流れる情景に、
ウソだろ…と思いつつ、とっさに女の子を突き飛ばしたら、
自分が跳ね飛ばされた。
コンクリートの地面に横たわって泣いてる女の子を見ながら、
あのとき先生もこんな景色を見たのかな…とか考えつつ意識を失った。
入院先に俺が助けた女の子の親が見舞いにやって来た。
彼女の親は中学時代の恩師であり、俺の命の恩人そのヒトだった。
「これで貸りは返せましたね」
と俺が言うと
「バカ…最初から、借りも貸しもないよ」
と先生は言った。
ベットの周りのカーテンを閉めて、
俺たち二人、黙って泣いた。