当時20歳の世間知らずな田舎者の私は
都心に出てバイトを始めた。
そこには掛け持ちのフリーターが沢山働いていて
年齢も皆ばらばらで、毎日シフト入ってた私は
週末しか出勤しない38歳のおじさんと仲良くなった。
18歳も年が離れてるとは思えないくらい若くて、
20代に見えるその人はとにかく目がでかくて
私以外とはあまり話さない、
物静かでおっとりしたおじさんだった。
おじさんは週末しか出勤しないのに
港区の高級住宅街に住んでいると言っていて、
他のスタッフみたいに掛け持ちで仕事他にしてるのかと思ってたら
「してないよ~」とヘラヘラして答えるので実家が
お金持ちのお坊ちゃんとかなのかなって特に気にしてなかった。
けど、なんて言ったらいいか分からないけど何気ない
質問とかしてもはぐらかすような人で謎が多くて
なんとなく存在に違和感を感じてた。
おじさんは頻繁に私にメールしてくるものの
口説いてくるような感じでもないし物腰柔らかい
無害な人だと思ってたから2人で飲みに行ったりも何度かしてた。
バイト先でおじさんは人と殆ど話さないんだけど
外国人の友達が凄く多くて、バイト先にお客さんとして
来る友達らしい人は皆外国の人(黒人さんばかり)だった。
私は英語話せないしコミュニケーション取りづらいので
外国人が苦手だったんだけど、おじさんと飲みの約束をしたある晩、
飲みに行く前に友達と会う用事があるから付き合ってほしいと言われ、
地下の小さなクラブに連れていかれた。
お店の中は音が凄いうるさいし暗いし外国人だらけで、
クラブで夜遊びなんてした事ない私は挙動不審。
程なくおじさんの友達らしい黒人さん3人くらいが近寄って来て、
そこで待ってるように言われておじさんと外国人が
お店の隅っこに行ってお互い紙袋を交換し合ってすぐ戻って来た。
え?もう用事終わったの?って感じでそのあと普通の飲みに行って解散した。
数日しておじさんから「今夜、深夜の1時に
都内の某巨大公園で黒人の友達数人と集まるから来いよ~」とメールが来た。
なんでそんな深夜に大人が公園で集まるんだろう?
家から遠いし眠いし外国人苦手だし、仲良いといっても、
何度か飲みに行ってもおじさんは無口で
退屈に感じてたのでとりあえずまた今度誘ってくれと断った。
そのまた数週間程して、
おじさんはバイト先にパッタリ来なくなった。
店長によると体を悪くして入院したと聞いて、
その間連絡もなかったけど心配とかよりも何故かモヤっとした。
何にモヤっとしたのか今でも分からないけど、
頭のどこかでいつも思い出すとおじさんの存在自体に
モヤっとしていた気がする。
その時期に偶然行ったネイルサロンで見たテレビでアスカが
薬物で逮捕された事がずっと報道されてて
、一緒に服用してた女性がただの飲食店店員なのに
青山の高級マンションに住んでいて不審だったという報道内容だった。
そのニュース見た時は本当に思い出せなかったんだけど
自分で不思議なくらい頭に「???」が出て来て、あれ?
この話聞いたことある…
その不審な違和感知ってる…身近にそんな人いる気がする…?
って変な気分になったけどこのモヤモヤの正体が分からず忘れてた。
その日から1ヶ月近く経って突然知らない番号から
電話が来て出たらおじさんだった。
開口一番「俺って今バイト先でどういう扱いになってる?」と聞かれた。
「店長から体調崩して入院したって聞いたけど、大丈夫ですか?」と質問すると、
「あはは~なるほどね」
とだけ言って切られた。
なんなんだよ…と一応店長に電話が来て元気そうだった事を報告したら、
「仲良かったんだっけ?誰にも言わないでほしいんだけど」
と聞かされたのが、おじさんは入院してたのではなく
薬物を自宅で栽培していたのがバレて
逮捕されていたという事だった。
聞いた瞬間に自分の中でおじさんへの
違和感の正体が全て解けたというか、
目では見てきたけど頭では理解できてなかった
おじさんの言動や行動の映像がつながったような感じ。
謎の紙袋の交換や週に2日の時給千円のアルバイトのみで
何故高級住宅に住めてたのか分かって、
ああああ!!!そういう事か!!!!って声に出た。
目がギョロっとしてるのも薬物のせいか!と変な決めつけもした。
この時まで薬物や暴力団って本気で都市伝説だと思っていて
田舎者の自分には関係ないし滅多にそんな人いないと思い込んでた。
更にしばらくしておじさんはバイト先に復帰して来たんだけど
突然毎日出勤するようになって、引っ越しもしたと言ってた。
事情を聞いてしまったせいで、
栽培で稼ぐことが出来なくなって真面目に仕事し始めたんだなって思った。
数年前の話なので、今は何してるのか知らないけど
おじさんに連れていかれたクラブのある駅に行くとたまーに見かける。
深夜の公園に呼ばれた時もしも行ってたら
何かへ誘われてたのかなと思い出した衝撃的だった話です。