始まりは兄貴が付き合ってたシングルマザーの彼女が死んだ事だった
その彼女と兄貴は結構前から付き合ってて
俺も何度かあった事があったんだ
当時は俺も兄貴も実家に住んでて
休みの日に出掛けようとしたら家の下で
ばったり出くわしたのが初対面
第一印象は正直最悪だった
俺はコミュ障だけど言っても兄貴の彼女だから
勇気を出して「こんにちは」って言ったんだ
そしたら向こうは「あっ…」だけ
その時俺は弟の俺に愛想よくしときゃ
親とかよりハードル低いのにバカな女だなーって思ってた
兄貴は俺と違ってコミュニティモンスターだった
誰とでも仲良くできるし、実際友達も多かった
イケメンだったしね
その兄貴が何でこんな女とって思ってた
でもコミュニティモンスターの兄貴は
大して印象も良くない兄貴の彼女と接する弟の気持ちなんて
気付くわけもなかったんだな
悪い人じゃないんだけど自分とは違う人種がいるのが
イマイチよくわかってない人だった
俺が友達もいなくて休みの日のたびに
家でゴロゴロしてる俺をやたらと兄貴と彼女とその子供と4人で
遊ぼうって誘ってきた
言い忘れてたけど兄貴の彼女はシングルマザーだった
初対面の時は子供が3~4歳だったのかな
何度か断りきれずに兄貴に誘われて
遊んだ時にファミレスにいったんだ
その時その子供は彼女の買ったばっかりの
携帯を持って走り回ってた
で、案の定帰り道にこけた
画面をアスファルトに思いっきりこすって
子供なんだから走り回ってりゃ
そりゃこけるだろうししょうがないよなーとか思ってたら
彼女はこけて泣いてる子供より
自分の買ったばっかりの携帯の心配をしだした
本当最低な女だなって思った
泣いてる子どもを兄貴が抱き上げてあやしてた
本当バカな女って心の中で軽蔑してたし
兄貴の事もバカにしてた
その2年後くらいに兄貴の彼女が死んだ
詳しいことはよく知らんけど自殺だったっぽい
子供を保育園に迎えにも行かずに車に飛び込んだらしい
もしかしたら事故だったのかもしれないけど
興味もないから気にしてなかった
その時は俺も一人暮らししてたし
兄貴も彼女とその子供と暮らしてた
何でかよく知らんけど兄貴は籍を入れてなかった
親が反対してたのかな
彼女の方がずい分歳上だったみたいだし
兄貴は本家の長男だったから
正直印象もあんまり良くないし
葬式にも行ってない
まあ兄貴も仕事してるし
子供と仲良くやってるみたいだったから
そのまま育てるのかなーとか勝手に思ってた
そしたら兄貴が狂った
どんどん言動と行動がおかしくなって
職場で奇声を発してぶっ倒れたらしい
会社を早退して見舞いに行ったら兄貴は元気そうだった
子供を保育園に迎えに行ってくれって言うから
兄貴に保育園に電話してもらって迎えに行った
彼女の事はあんま好きじゃなかったけど
子供に罪はないから兄貴の家に連れて帰って飯食わせたり、
寝かしたり、保育園連れてったりを一週間くらい続けた
兄貴は普通に退院して帰って来たから俺も自分の家に帰った
しばらくは何事も起きない普通の日々が4~5年続いた
兄貴は新しい彼女も作らずに子供を育ててた
でも多分どっか心の根っこは狂ったままだったんだろうな
当時は俺も彼女と同棲してて
そろそろ結婚もなんて考えてた時期だった
彼女が子供が好きで兄貴と子供とはたまに遊びに行ってた
ある日兄貴から電話がかかってきた
「昨日の夜からくーちゃん(兄貴)が帰ってこない」
って子供から電話だった
しかも兄貴の携帯から電話かけてくるって事は
携帯を家に置いてってるって事だ
慌てて兄貴の家に行ったら子供が一人で泣いてた
小4で1日親代わりの兄貴がいないだけでこんな泣くかって思ったけど
よく考えたらこいつの母親も実の父親も突然いなくなったんだよな
警察電話して捜索願い出して取りあえず子供をうちに連れて帰った
うちの実家は親父が病気して
寝たきりで母親は看病してたから仕方なくうちで預かる事にした
ちなみに死んだ兄貴の彼女は
親に勘当されてて音信不通状態だったっぽい
詳しくはわかんないけど
で、しばらく待ったけど兄貴見つからなかった
その頃の我が家は俺と彼女と子供と3人で住んでるのに
3人とも苗字がバラバラなカオスな状態だった
2年くらい経った時に病気だった親父が死んだから
これを機にって彼女と入籍して子供を養子にして
母親と4人で住み始めた
養子にするのってすごい大変だと思ってたけど案外簡単なのな
子供もそれなりに自分の意見言えたし2年一緒に住んでたからかな
その時子供は小6から中学に上がる直前くらい
中学になるから心機一転苗字を
自分で選ばせようとしたらうちの子供になるって言ったから養子にした
入籍して養子にした直後くらいに嫁の妊娠が発覚した
その時は子供も嫁にも母親にも懐いてるし
うまく回ってよかったなって思ってた
兄貴の事は気がかりだったけど
2年も経ったら気にする日も少なくなってた
その年の冬に俺の子供が生まれた
男の子だった
めちゃくちゃ可愛かった
月並みだけど目に入れても痛くないってこう言う事だと思った
嫁も母親もメロメロだった
特に母親
これでうちにも跡取りがやっとできたって養子の前で言ってた
ここで気付いてあげればよかった
養子は死ぬ程荒れた
警察のお世話にも何度もなった
自分の居場所を探してたんだろうなって今なら思えるけど
その時の俺はそんな事考えられなかった
ぶっちゃけ拾ってやったのに恩を仇で返されたって思ってた
何度も何度も警察に行って謝って
その度に養子にお説教して
ある日俺は言ってはいけない言葉を養子にぶつけた
お前なんか拾わなきゃよかった
両親と兄貴に捨てられて
天涯孤独のお前を拾って世話してやったのは
誰だと思ってるんだ
嫁と母親もどれだけお前に迷惑してるか考えてた事あるか
って言い放った
いつもは反抗的に言い返してくる養子が
その時だけは絶句したように目を見開いて
そのまま自分の部屋に消えてった
そこで俺は自分がとんでもない事を言ってしまった事に
気が付いたけど時は巻き戻せない
次の日から養子は帰ってこなくなった
俺が仕事に言ってる時には何度か帰ってきたみたいだった
嫁と母親と子供しかいない時に帰ってきて
荷物をどんどん運び出していったらしい
それから5年養子とは連絡がつかなかった
当時養子は中学の卒業間近でそのまま
学校にも顔を出さなかったみたいだ
俺は正直とんでもない事を言ってしまった罪悪感と
せいせいした開放感と半々の気分だった
もう警察に行かなくていいんだって思ってた
当時は家に帰ってくるのも稀だった
帰ってこないと思ったら警察からの呼び出しだったり
養子の事は気にしながらも自分自身の仕事や家族で
手いっぱいだった
実子の子育てももちろん仕事も
忙しくてしょうがなかった
この前の土曜日子供を連れて
家を出ようと思ったら家の前に見た事のある
シルエットのお兄ちゃんが立ってた
養子だった
女性を連れてた
そのまま養子は玄関先で土下座してきた
涙を流しながら5年前はすいませんでした
自分がガキでしたって謝ってきた
俺はそこで5年前の俺の過ちをやっと謝る事ができた
俺も泣きながら土下座した
いい大人が玄関先で泣きながら土下座しあってた
養子が連れてきた女性は結婚を考えてる女性だった
自分には親がいないから親代わりの
俺に結婚を許してもらいにきたって言ってた
あんな暴言を吐いた俺を
まだ親代わりって思ってくれてた
それから養子とたくさん話した
初めて一緒に酒を飲んだ
2人してずっと泣きながら謝ってた
泣きながら酒を飲んで
泣きながらお互いにこの5年間の話をした
実子は養子の事覚えてないから
何が起きてるのかまったく理解してなかった
養子は中学を出た後は
住み込みでずっと仕事をしてたらしい
まだ若くて金もないから結婚式は
上げられないけど親族で食事会をしたいから出席して欲しいって言われた
それを聞いてまた泣いた
土曜日は朝まで養子と酒を飲んだ
その日泊まって養子は日曜日に帰っていった
近々この近くに越してくるらしい
大したオチはないけれどこれが
俺が突然小4の子を育てる事になった話
ちなみに兄貴は未だに音信不通で
7年経った時点で死亡届出した
養子が心から許してくれたかはわからないけど
これからちゃんと親子をしていきたい