電車に乗ったら優先席にじいさんが座っていた。
じいさん、携帯電話を取り出しピッピッピッ。
「あーあー、もしもし、私だけどね。」とびっくりするほどの大声で話し始めた。
雑談ばかりの通話が終了し、じいさんはさらに別の所へかけようとしている。
余りの酷さにそばに立っていたリーマンのおじさんが「電車の中ですよ。」と
小声で注意すると、「ここは優先席だろうが!」といきなり逆ギレした。
いや、勘違いしてるって。リーマンも周囲もここであきらめ顔。
次の駅でじいさんの隣の席が空いた。
そこに、昔はさぞや美人だったろうというような、
上品なおばさんが歩み寄ると先程のじいさんに
「すみません、わたくしペースメーカーを入れておりましてね、
携帯電話の電源をお切りいただけますでしょうか。」
と微笑みながら言った。
じいさんがおとなしく携帯の電源を切ると、
おばさんは「ありがとうございます」と言って座り、
リーマンに微笑んだ。
じいさんはやることが無くなって寝てしまった。
しばらくしてじいさんはまだ熟睡していたが、おばさんとリーマンと私は同じ駅で降りた。
おばさんはホームに降りるとリーマンに「あのね、嘘でしたのよ。でも内緒ね。」
いたずらっぽい笑顔まで上品だった。