徳島の田舎。当時10歳の私と祖母は、
山菜取りに山の中に行った。
よく晴れた気持ちのいい日だった。
小休憩の間に林の中をうろうろしていると、
少し開けた草むらに、私は2,3件からなるバラックの集落を見付けた。
妙な気配に振り向くと、男が三人、
近くの茂みの暗がりからじっとこちらを見つめている。
身長はでこぼこだが、三人とも小太りで目が大きく丸刈りと、
驚くほど似ていた。
そして男たちは、頬を風船のようにふくらませ、
顔を真っ赤にしながら、こちらに向かって必死に息を吹きかけ始めた。
私は恐ろしくなり、大声で泣いた。
大声で泣き続ける私。
男たちは、ふー!ふー!を息を吹き付けながらも、
今や茂みを出てじりじりとこちらに寄る。
その時、私は背後から何かに顔を掴まれた。
祖母であった。
「息、止めれ!」と私に言う。
止めようにも、祖母に右手で口、左手で鼻をつままれた私は窒息寸前。
ヘッドロックの様な体勢のまま、祖母は私を引きずりながら駆け出した。
山道に出て、祖母は私のホールドを解くと、
ぺたんと座り込み泣きだす。
「あの人たちはなァ、可哀相なんだぁ…」
と言いながら。
家に戻って私が祖父にその話をすると、
祖父は祖母を力一杯殴りつけた。