女上司「クリスマスイブ……予定空いてる?」部下「ありません。失礼します」スタスタ

女上司「クリスマスイブ……予定空いてる?」

部下「空いてません」

女上司「そんなことないよね?」

部下「空いてません」

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女上司「とかいって本当は?」

部下「空いてません」

女上司「日頃お世話になってる人と甘い夜を過ごす気は……」

部下「ありません。失礼します」スタスタ

女上司「ぐぬぬ……!」

女上司(いつもより気合入れたお化粧で誘いをかけたのにダメだった……)

女上司(いつもは誘えば付き合ってくれるのに、どうしてクリスマスだけ……)

女上司(やっぱり彼女か! 彼女がいるのか!?)

女上司(こうなったら12月24日は……!)

クリスマスイブ当日――

顧客「御社の化粧品、取り扱わせて頂きますよ」

女上司「ありがとうございます!」

女上司(大口取引が決まった……さすが私。だけど今はこの喜びに浸ってる場合じゃない)

部下「お先に失礼します、課長」

女上司「ええ、お疲れ様」

女上司「……」ガタッ

女上司(尾行開始!)

部下「……」スタスタ

女上司(デートにでも行くかと思いきや、自宅に帰っていく。結構大きい家に住んでるのね)

女上司(彼女がいるわけじゃない? それとも家に呼ぶんだろうか)

部下「おーい」

女上司(誰かに話しかけてる?)

部下「今年も仕事だ、頼むぞ」

トナカイ「……」コクッ

女上司「え……!?」

部下「着替えて、と」

部下「よし、バッチリ!」

部下「さあ、子供達にプレゼントを届けに行くぞ!」

女上司「えええええええ!?」

女上司(まさか、部下君がサンタクロースだったなんて……!)

部下「課長!?」

女上司「あっ、しまった……!」

部下「どうしてここに……!?」

女上司「あ、いや……クリスマスどんな予定があるのかなーと思って……」

部下「俺をつけてきたんですか。しょうがない人だなぁ」

女上司「ごめんなさい……」

部下「仕方ない、だったら一緒にプレゼント配りませんか?」

女上司「え、いいの!?」

部下「このまま帰ってもモヤモヤが残るでしょう? だったら……」

女上司「ありがとう!」

部下「しっかりつかまって下さいね」

女上司「うん」

部下「出発!」

ギュオオオオオッ! シャンシャンシャン…

女上司「キャーッ! はやーいっ!」

部下「なんたってこの地域全ての子供にプレゼントを配らなきゃなりませんからね」

女上司「営業にも“担当地域”ってあるけど、サンタさんにもあるのね」

女上司「プレゼントを配るのはいいけど……内容はどうやって決めてるの?」

部下「クリスマス近くになると、サンタの頭に担当地域の子供達の願いが届くんですよ」

部下「あれが欲しい、これが欲しい、っていうのがね」

部下「あまりにとんでもないものでない限り、そのまま希望通り届けるシステムになってます」

女上司「とんでもないものって?」

部下「例えば『本物の銃を撃ちたーい!』なんて子供がいても、モデルガン等に差し替えます」

女上司「なるほどね」

部下「じゃあ、さっそく一軒目行きましょう」

部下「あの家です」

女上司「煙突がないけど、どうやって入るの?」

部下「今時煙突のある家なんてありませんよ」

女上司「まあ、そうだけどさ」

部下「俺たちサンタはこの夜だけ、壁をすり抜けて家に入ることができます」

部下「俺にくっついてれば、課長も大丈夫です」

女上司「すり抜けられるの? 泥棒し放題じゃない!」

部下「もし、そんなことしたらサンタの資格剥奪はもちろん、恐ろしいペナルティを課せられますけどね」

女上司「恐ろしいってどんな?」

部下「口に出すのも……」ブルブル

女上司「さすがサンタ業界、信頼を守るための仕組みもしっかりしてるわ」

部下「さ、どうぞ」

女上司「ホントにすり抜けられるんだ……」

男児「くぅ、くぅ……」

女上司「あら、可愛い。よく寝てる」

部下「この子のプレゼントは……ニンテンドースイッチ。これだな」サッ

部下「さ、行きましょう」

女上司「もう行っちゃうの?」

部下「流れ作業みたいにしないと、とても朝までに間に合いませんから」

女上司「一軒目終了ね」

部下「はい」

女上司「ところで、プレゼントはどうやって入手してるの? 自腹?」

部下「まさか。破産しちゃいますよ。それに、ちゃんとサンタ独自のルートっていうのがあるんですよ」

部下「だから、一般の人では手に入れにくいオモチャも用意することができるんです」

女上司「サンタ・ネットワーク恐るべしね」

女児「すー……すー……」

女上司「この子は?」

部下「プリキュアの変身セットですね」

女上司「よく似合いそう」

部下「枕元に置いて、と。どんどん行きましょう」

女上司「うん!」

部下「この子は……プラモデル」

女上司「まだ幼いけど、ちゃんと作れるのかしら」

部下「リカちゃん人形」

女上司「私も子供の頃欲しかったから、親近感あるわ」

部下「この子は……水戸黄門の印籠」

女上司「渋い……!」

部下「明日の朝、“ひかえおろー!”ってやってる姿が目に浮かびますよ」

シャンシャンシャン…

女上司「あなたはどうしてサンタさんになったの?」

部下「親父もサンタをやってまして、その跡を継いでという形です」

部下「高校生の時かな。親からサンタである事を明かされて、将来やってみないかといわれて……」

女上司「迷わなかったんだ?」

部下「はい、親父がサンタってのはなんとなく感づいてましたし」

部下「子供に夢を与える仕事ってステキだな、と思ったから……」

部下「その代わり、この日の夜は絶対空けなきゃいけないですけど。すいません、あんな断り方して」

女上司「いいっていいって。年に一度だし、こっちの方がずっと大事じゃない」

子供「むにゃ……」

部下「この子のプレゼントは、と……」

子供「……ん?」

部下「!」

子供「誰……?」

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部下(しまった、起こしてしまった!)

女上司「私に任せて」

女上司「ねんねーんころーりーよー♪」

女上司「おこーろーりーよー♪」

子供「……」

子供「むにゃ……」

部下「助かりました……。こういう事故はたまにあるとはいえ、なるべく見られないようにするのが掟ですから」

女上司「年の功ってやつよ」

シャンシャンシャン…

女上司「袋の中身がやっと空っぽ! 終わったね!」

部下「……」

女上司「どうしたの?」

部下「実は……あと一軒あるんです」

女上司「どういうこと? プレゼントはもうないのに……」

部下「その子の“願い”が……俺には届かなかったんです。つまり、プレゼントが欲しくない子なんです」

部下「こんなこと初めてで……ここで仕事を終えてもいいんですけど……」

女上司「……」

女上司「部下君、あなたはサンタクロースであると同時に営業マンでもあるのよ」

部下「!」

女上司「営業マンが“お客のニーズが分からないので、商品は売り込みません”でいいと思う?」

部下「……思いません」

女上司「そうよね」

女上司「とりあえず、その子の家に行ってみましょう。何か欲しいもののヒントがあるかもしれないし」

部下「はいっ!」

部下「この子です」

少年「……」スースー

部下「部屋も殺風景で……好きな漫画やキャラクターも分からないですね……」

女上司「ちょっと待って」

少年「……ママ……」

女上司「ママ……?」

部下「――そうか、思い出した!」

部下「サンタには一応、担当地域の子供達のパーソナルデータも知らされるんですが」

部下「この子は母親を亡くしてるんです」

女上司「お母さんを……」

部下「だから、プレゼントを欲しがる余裕がなかったんだ」

部下「もっというと、この子が最も望んでいるのは天国の母親ってことに……」

部下「しかし、いくらサンタでもさすがに死者を連れてくるなんてことは……」

女上司「……」

女上司「諦めるのは早いわ」ガサゴソ

部下「ちょっと何してるんです!? 人の家を勝手に……!」

女上司「あった、アルバム! この子のお母さんは、と……この人ね」

女上司「これなら……」ボフボフ

部下「化粧なんかしてどうするつもりです?」

女上司「いいから、見てなさいって。化粧品メーカー営業課長の実力を!」

女上司「どう?」

部下「……! 似てる……! この子の母親そっくりだ!」

女上司「私と比較的似てる人でよかったわ」

部下「それでもここまでできるなんて……」

女上司「化粧品メーカーに勤めるならこれぐらいできないとね。実演することもあるんだし」

女上司「……さてと」

少年「……」スースー

女上司「起きて……起きなさい……」

少年「……?」

少年「あっ、ママ!? ママ!」

女上司「そうよ、私よ」

女上司「サンタさんに無理をいって、天国からほんの少しだけ下りてくることができたの」

少年「ママ……!」

女上司「ごめんなさいね、あなたを残して……」ギュッ

女上司「学校はどう?」

少年「うん、楽しいよ!」

女上司「パパとはうまくやってる?」

少年「最初は二人で落ち込んでたけど、今はなんとか……」

女上司「そう……ホッとしたわ。もう少しだけお話ししましょっか」

少年「うん……!」

部下「……」

部下(凄いな、まるで本当の母親のようだ……)

女上司「もう……大丈夫ね」

少年「うん、大丈夫!」

女上司「じゃあ来年からはちゃんとサンタさんにプレゼント頼むのよ。でないとサンタさんも困っちゃうから」

少年「分かったよ、ママ」

女上司「それじゃ……元気でね」

少年「ママも……」

女上司「それではサンタさん、天国までお願いします」

部下「分かりました」

シャンシャンシャン…

少年「……」

少年(トナカイのソリに乗って、サンタさんとママが飛んでいく……)

少年「ママ……サンタさん……ありがとう」グスッ

シャンシャンシャン…

部下「お見事です、課長。まさか、あそこまであの子の母親になりきるなんて……」

女上司「うん、それなんだけどね」

部下「?」

女上司「途中まではたしかに私が喋ってたんだけど、途中からは体が勝手にペラペラ喋ってたのよね」

部下「え」

女上司「私が知らないはずのあの子のことまでペラペラと……」

部下「それって、もしかして――」

『ありがとうございました……』

二人「……!」

女上司「今の……聞こえた?」

部下「ええ、聞こえました……」

部下「課長があの子の母親そっくりに化粧したことで、なにか波長のようなものが合って」

部下「天国からあの子の母親が下りてこられたのでは……」

女上司「なおかつサンタさんが活動できる夜ってのも関係してるかもしれないわね」

部下「そうですね。こういった奇跡が起こるにはうってつけの夜です」

女上司「だとしたら、私たちは最高のプレゼントが出来たってことね!」

部下「はいっ!」

シャンシャンシャン…

女上司「もうすぐ朝になるわね……」

部下「今年もどうにか無事プレゼントを配り終わりました」

女上司「サンタさんって大変だね」

女上司「こんなに大変な思いしてるのに、自分はプレゼントもらえないなんて」

部下「いや、そんなことないですよ」

女上司「え?」

女上司「あ、そっか。あなたはあなたで“子供たちの笑顔”を想像できるもんね」

部下「そういうことです」

部下「さ、帰りましょう!」

女上司「うん!」

部下「……」

部下(課長とこの一晩を過ごせたことが何よりのプレゼントです、だなんて恥ずかしくていえるわけがない)

シャンシャンシャン…

〜おわり〜

 

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