売れない女優だった嫁。劇団員だった頃夢を諦めて「荷物はもう送った、今夜が東京最後の晩」

嫁は売れない劇団の端役女優だった(年は俺の一っこ下で当時29)。
でも演劇だけでは食えないので俺の勤め先に派遣として働きに来ていた。
フロア違いだから良く分からんが仕事はソコソコ出来たんだが
公演の時期になるとよく休んだり、チケットを売りつけようしたりで
他の人から敬遠され気味だったらしい。

俺は必ずチケットを買った。
何故なら営業先の顧客に演劇好きの人が居て、
始めに買って持て余したチケットを渡したら何を気に入ったか喜ばれて
毎回公演ごとに入手するように頼まれたからだ。

ある時公演が近付いたのに嫁が売りに来ないので
訝しがって嫁を探すと不況なので辞めてもらったと言われた。

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そこで諦めてプレイガイドで買えば良いのだが、
ずっと身内価格で入手してたので僅かの金を惜しんでしまい、嫁に電話をした。
急に会社辞めていたので驚いた事とチケットを買わせて欲しい事を
事務的に、本当に淡々と伝えたつもりだった。

しかし、何故か嫁は電話口で泣き出してしまい、
焦った俺はチケットを買うために会う約束をして
その際に話を聞くとして電話を切った。

あったらあったで嫁は何を勘違いしたか、
俺に向って身の上話というか人生相談をしだす。
俺が自分の常識に照らし合わせて
「まともな人生を送るつもりなら芝居を止めろ」といったら
でもでもを繰り返した。面倒なので無視して帰った。

2ヶ月後位たってその時交換したアドレスに会いたいと連絡があった。
チケットを売りつけるのかなっと思ったが、、
もう役者に限界を感じたので辞めて故郷に帰る、
貴重なアドバイスをくれた俺にお礼が言いたいとかいう。

まぁ、応援でもしてやろうと思い日を決めて会うと、
荷物はもう送った、今夜が東京最後の晩とかいう。
仲間には言い出し辛いのでちゃんと辞めると言えないから
(親の看病でしばらく田舎にいると嘘をついていた)送別会はなしだとか。
チケットに書かれた夜行バスの時間を気にしながら
10年あまりの東京生活を自嘲気味に話していた。

嫁がべろんべろんになるまで二人で飲んでバスの時間になったが
「さみしい、ひとりにしないで」と涙目でいう、、
これは食ってもとぼけられる据え膳だと思い
自分のマンションに連れ込み美味しく頂いた。

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その際に「ずっと好きだった」とか「帰らないで俺にチャンスを与えてくれ」とかいった。
確かに言ったと認めるが全て酔ったせいになる範囲の発言だったと思う。

で、次の日の朝、お昼の新幹線にのるという嫁を
「オートロックだから」と言って部屋に残して仕事に行って10時頃帰ると、
そこに居ないはずの嫁が晩御飯を作って待っている。

「2度寝して起きたら夜の8時だったの、テヘ」
今、嫁を追い出さないと大変な事になると
俺の胸のカラータイマーは赤く点滅してたが、
そのまま晩飯と嫁を食ってしまい、、、、

次の朝「やっぱりもう少し東京で頑張るから部屋を見つけるまで居させて」という嫁は
直ぐにアルバイト先を探してきたし家事労働と体で宿泊費を払ってくれた。
が、肝心の部屋探しは「気に入った所がない」と見つけようとしない。
2週間後嫁実家から荷物が届きあれよあれよという間に同棲状態に持ち込まれ、
3ヵ月後の歳の暮れに「そろそろ親に会って」となった。

舞台での演技を見た事はないが結婚まで持ち込んだ嫁は凄い女優だと思う。
(嫁の舞台を一度も見てないのは永遠の秘密にする予定)
小道具wに使った夜行バスのチケットは
「俺との青春の思い出」という事で今でも嫁は大切に持っている。

嫁と一緒になって不幸と思ったことはない。
嫁は俺に対して従順できめ細かな気遣いをしてくれるから、
今では他に代わりのいない人だと思うし愛しい気持ちを持っているぞ。

ただ嫁の方は俺でも良かった程度で結婚したんじゃないかな?って思う。
別にそれはそれで構わない、それが縁じゃないかって気がするから。

問題なのは、、、、
嫁が俺の事を「出会った頃からずっと好きだった」と言い張るんだよ。
絶対、嘘だと丸わかりなんだが、「ピピピって来た」と主張するんだ。
そして信じないというと怒るんだよなぁ~、たまに泣き出すし。

だから波風立てぬようにしてんだが、、なんか丸め込まれた気がして不満だ。
ここいら辺が端役止まりだった所以かねぇ?

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