大学一年生の冬に起こった修羅場。
私は帰省する時に高速バスを使っていて、
その年の年末年始も高速バスでの帰省を計画していた。
早めに着いて並んでいたが、
帰省ラッシュのせいか私の後ろには続々と人が並び長蛇の列に。
いよいよバスが来て乗り込んだらあっという間にぎゅうぎゅうの
すし詰め状態。
補助席ですら全部埋まってしまう始末。
それでも乗れない人が数人いてその人たちは
二号車に乗ってもらうそうだった。
私はバスの窓際の席に乗って、
しばらくしてから綺麗なお姉さんが「空いてますか?」と聞いてきて隣に座ってきた。
特になんの違和感もなかったがここから地獄が始まった。
バスが走り出してから何か異臭がし始めた。
主張が強いフローラルでスウィーティーな香りの中になにか
強い刺激臭がさらに主張してくるようなすごい臭い。
例えるなら、薔薇といちごを味噌の中に半年つけて取り出したみたいな臭い。
とにかくその臭いに耐えてなんとかサービスエリアでのトイレ休憩に。
トイレに立ってすぐ戻ったら何故かその臭いが全然しない。
「なんで?さっきはあんなに臭かったのに。」と疑問に思っていたその時、
隣のお姉さんが戻ってきた。
その瞬間、あの臭いが甦ったのだ。
明らかに匂いの発生源はこのお姉さんである。
恐らく、このお姉さんの香水か柔軟剤か何かの臭いがとてつもなく
やばい事になっていたのだろう。
トイレ休憩が終わり、再びバスはノンストップで走り出す。
いつもなら心地よい高速道路の風景がこれ程恨めしく思える日はなかった。
換気も試みたがそもそもこの窓は開くように設計されていなかった。
私はその間中、ひたすら込み上げて来る吐き気を抑えるべく必死に歯を食いしばって、
キンモクセイの「二人のアカボシ」を応援歌としてループして聞いていた。
「お姉さんにはすごく失礼だけど、
せめて金木犀みたいな香りだったらよかったのに」とか
「本当に遠くへと連れ去ってくれ」とか色々思いながら耐えていた。
そうこうしているうちに、高速バスが各駅停車(?)タイムに入った。
いよいよ終わりが近づいてきたと思ったがここからも長かった。
お姉さんが一向に降りる気配がなかったのだ。
あと30分も歯を食いしばるのは無理だと絶望。
それでもできる限り我慢したが、私の口の中は酸味が増して、喉からギュルルルルと音が鳴った。
限界だ。目的地まではまだ少し遠かったが相当くはない距離だったので降車ボタンをすぐ押した。
終点近くだったはずなのにお姉さんは相も変わらず一向に降りる気配がなかったので
多分このまま終点まで乗っていたのだろう。
あのまま乗ってたら絶対にバスの中で吐いて大変なことになっていたと思うから今思うとあそこで降りて良かった。
そして、降りてから私はすぐ近くのドラックストアのトイレに駆け込んで吐いた。
トイレの臭いですらいい匂いに感じられたのは多分これが最初で最後だと思う。
スッキリした私は家に無事に着いて一安心。
それ以降も高速バスは利用してるけどあれほど混んだ日に当たったことはあまり無い。
あったことはあったけど無味無臭の人が隣だったので快適だった。下手すりゃ、
加齢臭のおじさんでもマシかと思えるほどあの臭いは強烈だった。
冬で空気が悪く、すし詰め状態のバスの中で異臭と戦った修羅場は今でも忘れられない。