抜きうちで実家に帰ったら、
知らん女が母の服を着てテレビ見てた時。
進学で県外へ行き、過酷なほどに多忙な職種に就いて、
恥ずかしながら何年も実家に帰ってなかった。
盆も正月も帰らずたまに電話するのみ。
電話はたいてい父が出て、
「変わりない」と報告だけして切る。
母に替わってもらうことはまずない。
たまたま出張で故郷の県に行く用があり、
半日ほど余裕ができたので実家に寄ることにした。
一応電話したが誰も出なかったのでそのまま向かった。
鍵は持ってるので勝手に入った。
この時点で何か家が臭いとは思っていた。
居間をガラっと開けて「ただいまー」と言ったら、
母の服を着た知らん女がこっちを「え?」って顔で見た。
俺も「え?」と声を発した。
母より10歳くらい若い中年のデブ女。
まったく知らん顔。
くつろいでジュース飲みながら昼ドラ見てた。
「あれ?ここ俺んちだよな?」とパニック。
しかし家具は間違いなく俺んちだし、間取りもうちの物。
何より女が着てる服に見覚えがある。
「泥棒」とか言われたが
「俺はここんちの息子だ!お前こそ誰だ!」
と怒鳴ったらピタっと黙った。
動きの止まった女をほっといて母を探した。
母は仏間に布団をひいて眠ってた。
痩せて、オムツをしていた。
家が臭いのはこのせいだった。
俺の顔を見ると「夢か」と言って泣き出した。
訳がわからないので「警察を呼ぶ!」とスマホを出した。
女が飛びかかってきてスマホを掴み
「話せばわかるから!」と言うようなことを叫んだ。
意味がわからないし気味が悪いので、
女を外へ放り出した。
母に「どういうことだ。警察を呼んでいいか」と聞いた。
母は「警察はやめて。口をきくのもしんどい。
お父さんが帰ってくるまで眠らせて」と言い目をつぶった。
しかたないので2時間ほど母のそばで待った。
父が帰ってきた。
父は追い出したデブ女を背後に連れていた。
「なんなんだその女は」と聞くと
「実は…」と父親はモゴモゴした。ウザイ顔だった。
モゴモゴし続けるので怒鳴りつけて吐かせた。
デブは親父の交際相手だった。
母が足を怪我して家のことができなくなったので、
デブを呼んで家事と母の世話をさせていたらしい。
定年退職済みの親父は、
デブに家のことをさせてその間ギャンブル。
母は最初のうちは抵抗したが、
メシ抜きにされたり、段々気力をなくして
無抵抗に眠ってるだけになっていたという。
「めっかっちゃった☆」みたいな顔で
ニヤニヤモゴモゴしている親父を突き飛ばし
デブとともに追い出した。
鍵を持ってるだろうが、俺がいる間は入ってこなかった。
その間に母を着替えさせてタクシーで駅まで行き、
新幹線の切符を買って連れ帰った。
母はそのまま入院。
母方の親戚に連絡をとっていきさつを説明したが、
なかなか信じてもらえず参った。
ようやく両親の離婚が成立した。
まだ細かい条件は詰めてないが、
離婚届は父母ともに署名した。
離婚について活躍したのは主に母方親戚で、
特に母の姉旦那である伯父。
土建系の社長してて、
営業力という名の根回しに長けている。
伯母(母の姉・伯父の嫁)に頼られたら
あっという間に親父を追いこんでくれた。
母は怪我した箇所が変な風に癒着してしまい、
歩行に支障をきたすようになったので
(歩けないわけではない)慰謝料に上乗せした。
母の服着てたデブ女こと親父の恋人は、なんと既婚だった。
離婚調停中ではあるが離婚成立してない状態だそうで、
旦那に追いだされて俺んちに転がり込んだらしい。
ちょうど母が怪我して家事ができなくなってたので、
親父は一石二鳥!とデブを迎え入れたとか。
デブはあっちにもこっちにも
慰謝料を払わなくちゃならなくなった。
母は歩くのはちと不自由になったが、
体重が徐々に戻りつつあり、元気になってきた。
慰謝料の一部として実家は母の物になった
(今までは父母の共同名義)ので
親父はすでに追いだされている。
元気になったら母は実家に戻りたいそうなので、
俺の金でセコム入れる予定。終わり。